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「誰が見ても、私の攻撃がきれいに決まっているのに」 空手・月井隼南が“ジャッジの不利”のなか快挙を達成できた理由

posted2021/05/20 11:00

 
「誰が見ても、私の攻撃がきれいに決まっているのに」  空手・月井隼南が“ジャッジの不利”のなか快挙を達成できた理由<Number Web> photograph by 本人提供

空手の月井隼南は、東京五輪へ向けて最後の勝負をむかえようとしている

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布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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 5月2日(現地時間)、ポルトガル・リスボンで行なわれた空手のプレミアリーグ最終日。女子組手-50kg級決勝ではフィリピン代表の月井隼南がカザフスタンの選手と白熱したシーソーゲームを繰り広げる中、タイミングよく左中段蹴りを決め2-0で初優勝を収めた。試合後、月井は長い競技生活の中で初めてうれし涙を流した。

「ようやく自分で自分を認めることができるメダルを獲れたことでホッとしました」

 日本での学生時代、じん帯をケガして長いリハビリ生活を余儀なくされると、「月井は終わった」という陰口が聞こえてきた。3年半前、母の母国であるフィリピン代表として活動するようになると、かつて日本代表として活動した月井に対して「アイツは逃げた」という声を浴びせる者もいた。

 ムカついた。「絶対に見返してやろう」と奥歯を噛んだ。でも、実際に優勝したら人を恨む思いより、苦しいときに支えてくれた人たちの笑顔や言葉を思い出した。

「確かに怒りは単発的なエネルギーにはなる。でも、決勝では『応援してくれた人たちにカッコいいところを見せたい』というポジティブなマインドの方が上回っていました」

ホテルに練習場があるかどうかがキーポイントに

 闘いはコートの上だけではない。フィリピン代表になってからは世界選手権など一部の大会を除けば、大会エントリーの手続きや飛行機やホテルの手配はスポンサーからの援助を元にすべて自分でやらなければいけなかった。

「コロナになってからはホテルに練習場があるかどうかがキーポイントになりました。チームだったら確保できるけど、個人だったらそうもいかないので」

 今回は、日本からセコンドを務めるために現地入りした父・新さんの入国に手間取ったという。

「日本の空港でやったPCR検査の結果が手書きだったんですけど、その日付が日本だと7と認められる書き方が、海外だと1に見えてしまう。そういうミスで入国拒否になる恐れがあるということで、1日遅れの便に急遽変更しました。その手配も全部私がやりました」

 見えない苦労は枚挙にいとまがない。月井は「ここまで来るのは本当に長かった」と胸を撫で下ろした。

【次ページ】 知名度の大小が勝敗を左右するジャッジも

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