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19年前“無名の18歳”長谷部誠を知る先輩たち…浦和レッズ「黄金時代」山田暢久、永井雄一郎、田中達也は今何をしている?
posted2021/05/08 17:03
text by
近藤篤Atsushi Kondo
photograph by
Atsushi Kondo
今号のNumberは長谷部誠特集だ。
タイトルは『長谷部誠は知っている。』
昔、インスタントコーヒーのCMで、宮本亜門は知っている、というコピーがあった。その宮本亜門をオレは知らねえよ、と友人と笑い合ったことがあるけれど、長谷部誠のことなら少しは知っている。
長谷部誠が浦和レッズに入団してきたのは2002年の春先のことだ。ほっそりとして、端正な顔立ちをし、礼儀正しく、でもちょっと神経質そうな若者だった。
藤枝東高校の出身、ポジションはミッドフィールダーらしい、そのふたつが彼についての最大限の情報だった。要するに、誰も彼のことはよく知らなかったし、さほど興味も示していなかった。長谷部誠はone of them、ただの無名選手だった。
「てめえら、やる気あんのかよ!」
当時の浦和レッズは、JR浦和駅から20分ほど東に向かって歩いたところにある駒場スタジアムを本拠地としていた。僕はチームのオフィシャルフォトグラファーのようなことをやっていて、駒場でレッズの試合があるときは、だいたいいつも写真を撮りに出かけていた。
その頃のレッズで一番覚えていることは、というかほぼこれしか覚えていないのだけれど、とにかくレッズは弱かったということだ(まあ今もあまり強くはないけれど)。
スタジアムのゴール裏、特に南東のコーナー付近に陣取ったサポーターたちは、いつも試合前から殺気立っていた。
おい、お前ら、わかってるよな、オレらの応援で勝たせるんだよ!
試合前、コールリーダーはそんなセリフで仲間を鼓舞していた。でも、そんな熱い応援も虚しく、チームは不甲斐なく負けた。
キレたサポーターたちは時々暴走した。発煙筒をピッチに投げ込み、その発煙筒の消化用の水もぶちまけ、目の前に群がるカメラマンには唾を吐き、試合終了1時間後には選手バスを囲んでいた。
てめえら、やる気あんのかよ!
自分たちの応援で勝たせるって言ってたじゃんか。僕はそんなふうに考えたりもしたが、まあ、あの当時の浦和レッズは誰が応援してもたぶん勝てなかったと思う。
長谷部誠が入ってきたのは、そういうチームだった。
高2の冬から目をつけていた
なんで彼はよりによってあの頃の浦和レッズに入ることを決めたのだろう?
よほどの物好きなのか? 弱いチームならすぐにレギュラーになれるから? あるいは、まだ誰も知らない藤枝東高校のミッドフィールダーには、そもそも選択肢そのものがそれほどなかったのかもしれない。