マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高校野球九州大会、球場ヨコの公立高でスゴい“逸材バッター”に出会った話「高校通算はまだ25本ですけど…」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2021/04/27 18:35
昨夏の甲子園交流試合。花咲徳栄と対戦した大分商。当時2年の三代祥貴も出場していた
ホームから外野のネットまでがおよそ105m。下から7、8mほどの高さに黄色い帯が横にずっとセンター方向へ続いている。
打球はそのほとんどが、黄色い帯のはるか上方に集中する。
「あの帯を越えると、飛距離は130から140m。今日はまだ太ももの肉離れのリハビリ中なのでネットに当たってますけど、下(半身)が使えてれば、普通に越えますから、あのネット」
渡辺監督にそう教わって、ええっ!と驚いた。
「大分商・三代祥貴(みしろ・よしき)」という名前は、昨秋から聞こえていた。
新3年、180cm90Kg。1年秋から不動の4番打者をつとめ、外野を守ったり、時にはマウンドに上ったり、チームの大黒柱として奮闘してきた。
しかし、ここまでとは思っていなかった。
「高校通算はまだ25本なんですけど……」
力任せのギクシャクした「フルスイング」じゃない。
あらかじめ、右の耳あたりにトップを作っておいて、そこからのバットの振り出しが鋭い。
テークバックやタイミングの取り方に余計な“装飾”がなく、静かに待ってスパッと振り抜くシンプルなスイングスタイルだから、打球のスピードや飛距離にムラがない。左中間からセンターにかけて、同じような方向に、同じようなスピードと飛距離の打球が、繰り返し飛んでいく。
その光景だけ切り抜いて見れば、プロ野球のスラッガーたちの試合前のバッティング練習を見ているようだ。
これだけのバッティングをしておいて、歩く姿を見ると、肉離れ回復中の右足をかばって引きずっているのだから、万全の体調なら、一体どこまで、どんな打球を飛ばすのか。