マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高校野球九州大会、球場ヨコの公立高でスゴい“逸材バッター”に出会った話「高校通算はまだ25本ですけど…」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2021/04/27 18:35
昨夏の甲子園交流試合。花咲徳栄と対戦した大分商。当時2年の三代祥貴も出場していた
「自分としては、あのネットに当たるだけだと、別になんとも思ってなくて。越えていって、ああ、調子いいのかな、ぐらいで」
いろんな意味で、九州の男ですよ、あいつは――。渡辺監督が笑っていた通り。作り笑いや愛想笑いなんて、頼んでもやってくれないだろう。“事実”を自分の持ち合わせている言葉で淡々と語る。だから、安心して聞いていられる。
「いちばん自信があるのは、やっぱり飛距離なんですけど、引っ張ってばかりだと、上体に頼った打ち方になるんで、股関節を使った体重移動で右中間方向に打つようにもしていて。高校通算はまだ25本なんですけど……」
去年の春から夏がコロナでずっぽり抜けていて、それで25本だからたいしたもんだ。
「でも、この春は、15試合ぐらいでホームラン10本打ってますから」
「お母さんは毎朝4時に起きて弁当作ってくれて」
大分商グラウンドには、センターからライトに、同じような高いネットが巡らされている。名付けて「三代ネット」、4歳上のお兄さん・大貴さん(現・近畿大)が、左打ちのスラッガーとして大分商の4番を打っていた時に設置されたものだ。
「上2人の兄と自分、3人がここの野球部だったんで、お母さんとお父さんがすごいたいへんな思いして……」
三代祥貴、家族の話になって、急に自分から話を展開してくれるようになった。
阿蘇に近い緒方という町から、列車で1時間半かけて通学しているという。
「自分は朝5時に起きるんですけど、お母さんは毎朝4時に起きて弁当作ってくれて、自分の練習着の支度してくれたり。それで、5時半の電車に乗るんで、お父さんが駅まで車で送ってくれて。ドア閉める時に、必ず『行ってらっしゃい』って言ってくれて、それがすごく嬉しくて」
夜は9時、10時になって、親御さんは同じようにして、子のために尽くす。
親孝行しろよ……と言ったら、
「します」
じゃがいもみたいな坊主頭、思わずガシャガシャにしてやった。
「BTSのダイナマイトって知ってます?」
バスケットボールも部員顔負けのプレーが出来て、かなり踊れるほうだともいう。秘かな趣味は「ダンス」だそうだ。