各塁への送球も、イメージ通り。

　使う機会を持たない今の選手たちには、この動きがなかなか出来ない。これが出来ていれば、捕手としてかけがえのない「財産」だ。強烈なバックスピンを帯びた送球が、あっという間に待ち構える野手のグラブに突き刺さる。

　上空に強風が吹き抜ける状況で、高いキャッチャーフライの落下点をピシャリときめて、顔の真上にボールを落としてくるような捕球姿勢。そんなところからも「いい匂い」が漂ってくる。

　途中から、すっかり錯覚していた。「日大藤沢・牧原巧汰」を見ているつもりで、前嶋の動きを見ていた。

　それぐらい、捕手としての所作から身のこなし、身体能力に「いい匂い」……瓜二つだった。

打席に立つ横浜隼人高・前嶋藍捕手

「キャッチャーとしての潜在能力、バッティング面もディフェンスも、横浜隼人（史上でも）有数のキャッチャーです。あとは、キャリア。秋から試合でマスクかぶるようになったばかりですから、これから実戦の中で、成功したり痛い目に遭ったりしながら、“前嶋スタイル”を構築していってくれたら」

　ご自身も捕手出身の水谷哲也監督だけに、楽しみも大きかろうと思う。

「キャッチャーは結果論ですから…」

　この日の試合、彼にとっては、いくつもの「勉強」になったのではないか。

　横浜商業高校、神奈川では「Y校」と呼ばれる伝統校を相手に、試合後半に打ち込まれて惜敗（1-4）していた。

「だいたいでいいから、全力で腕を振って！」
「低く、低く！　ショートバウンドでもいいから、とにかく低く！」

　大胆な身振り手振りでマウンドの投手に意思を伝えながら、際どいコースのボールはピタッとミットを止めて投手に球道を見せながら、懸命にリードする。本人はこう話す。

「変化球でもよかった場面で、まっすぐを打たれたり。結果論になるんですが、反省しなきゃいけないところもあったんで。でも、キャッチャーのリードは結果論ですから、そこからさかのぼって考えて、ほんとにあれでよかったのかどうか……そこを考えないと。今日の試合は、1球の重さを感じました」

「あの頃の牧原より上かもしれない」

　それでも序盤3回、「新2年生の捕手」をターゲットにして揺さぶりをかけてきたような二盗を刺した送球はすごかった。

　真上から振り下ろした指先から、一直線に二塁ベース上に伸びた送球は、足から滑り込んだ走者を余裕で刺していた。

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