マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
“頭髪自由”の強豪野球部であえて丸刈りを貫く…横浜隼人高で「ソフトバンク・ドラ3」級のキャッチャーを見つけた
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
posted2021/04/21 17:03
横浜隼人高校・前嶋藍捕手(新2年・172cm80kg・右投右打)
もしかしたら、スローイングは「あの頃」の牧原巧汰より上かもしれない。
「牧原さんが2年の時に、お父さんがたまたま牧原さんの試合を見に行っていて、帰ってきて『すごいキャッチャーがいるぞ』って教えてくれて。はい、動画でよく見てます、特に(牧原さんの)スローイングは」
前日の3回戦、前嶋は大和スタジアムのライト95mの高いネットを直撃する一弾を放っていた。
「今日は、ぜんぜんダメでした。向こうのピッチャーのスライダーが難しくて……」
この日、横浜商業高の先発・山口塁投手のボールが走っていた。
クイックモーションのリズムで投げ込んでくる140キロ前後の速球と高速スライダー、そこにチェンジアップ系のスッと沈むボールが加わって緩急を形成するのだから、そりゃあ手の焼ける快投だった。
前嶋自身も、内野安打1本に翻弄されていた。
「まっすぐだと思って振りにいったら、そこからキュッと外へ動いて……」
しまった!と思って止めたバットに当たった打球が、ええっと思うほどのスピードで、二塁ベースの上を抜けていった。
「練習以外にも、パーソナルジムに通ってトレーニングしてるんで、筋力はまあまあだと思うんですけど……自分は右方向に強烈な打球を打てるのが持ち味なんで。握力ですか? 60キロぐらいじゃないかな」
「ウチのお父さん、床屋なんです」
「頭髪解放」(坊主頭にしなくてよいルール)で大学野球の選手のようなかっこいい青年集団に見える横浜隼人野球部。その中で、捕手・前嶋藍だけが、なおも「坊主頭」を貫く。
1試合、その身体能力と思考のすべてを総動員してフルに動き回り、汗と泥にまみれたユニフォーム姿。プロテクターとレガースをまとった姿にいちばん似合うのは、やっぱり「坊主頭」かもしれない。
もう一度、高校球児だった頃の「牧原巧汰」を思い出してしまった。牧原は高校時代にこう話してくれた。