「仮に観客を減らしてやるにしても、今度はチケットの問題があるでしょ。あれだけの倍率で当選した人の中から行けない人が出てくる。またそこで幸運と不運が生まれるというのが辛いよね。もちろん運営側からすればチケット収入の損失をどう考えるのかという意見があることもわかります。でもそれは後から考えるしかないでしょう。今必要なのは決断と行動力。それに、早く無観客と決めてしまえば、競技を伝えるメディア側だって放送準備に費やす時間が増えると思うんです。観客の盛り上がりを演出に使えないなら、違うやり方を考えざるを得ない。新しい映像文化が生まれる可能性だってあるわけじゃないですか。

　昔々、力道山の試合があったとき、みんながテレビを見るために仕事の手を休めたって言うでしょ。それと同じように、五輪開催中はみんなが家でテレビを見ることにすれば良いんです。そうしたら街中から人が消えて、自ずと外出の自粛につながる。五輪開催中に完全なコロナ自粛ができちゃったよって、そんな逆転の発想もあるんじゃないかな。五輪開催中にコロナを終息させる方向に導くことができれば、それは誰にとってもハッピーじゃないですか」

　厳しい言葉の裏側には、オリンピックへの愛がある。もちろん、望んでいるのは東京オリンピックの成功だ。

　東京からパリへ。次のオリンピックで活躍し、“還暦の星”と呼ばれることを信じて、山本はこの日も小さな的をめがけて渾身の矢を放っていた。