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「人を動かす力がすごい」とOBも称賛…相良南海夫(早大ラグビー部前監督)が齋藤直人ら歴代主将に伝えた“悔い”とは?
posted2021/04/16 17:02
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
SportsPressJP/AFLO
学生たちだけでなく、結果的に次代の早稲田を担う指導者の成長をも促した。
2年目に優勝を遂げたのは、このシーズンからコーチングスタッフに入った権丈太郎、後藤翔太の存在が大きかった。
「FWコーチの権丈は、五郎丸(歩・ヤマハ発動機)、畠山(健介・ニューイングランド・フリージャックス)の同級生で、主将として優勝した経験を持っていますが、大学時代に苦労したこと、そして感じていたことを、主将である齋藤に伝えていたと思います。このチームは齋藤、岸岡、中野の3人が、同級生なのにお互い遠慮するようなところがありました。おそらく、他人とぶつかっていくことの重要性を話していたはずです」
また、BKコーチの後藤は、戦術の構築面でユニークな発想を持っていた。
「後藤は独自の視点を持っていて、ラグビーは『テニスのラリーと一緒なんです』という見方をします。得点をした後、キックオフで再開してラリーが始まる。その時のマインドセットの重要性を説いてました。また、相手の分析をしたうえで、それをアタック、ディフェンスに落とし込むのもうまく、特に2年目の対抗戦で明治に負けたあとの1カ月間は素晴らしい仕事をしてくれたと思います」
「いい時期に声を掛けていただいた」
このインタビューが決まってから、私は、とあるOBから、こんな連絡をもらった。
「相良さんの人を動かす力はすごいです」
なぜ、そうしたことが可能なのか? 面はゆいだろうが、監督に直接尋ねてみた。
「何も言わないからじゃないですか。あと、あまり偉そうにしないからとか(笑)。学生、コーチともフラットに付き合うように心がけたことが良かったのかもしれません。最近、こうした質問を受けることが多くなりましたが、これだという回答はないですよ」
相良監督は、いい意味で「主語」が淡い。恬淡としていると言っていいかもしれない。あくまで主役は学生であり、大局から伝統あるクラブの運営をしてきた姿勢がうかがえる。
「もしも30代に監督を引き受けていたら、もっと気負っていたでしょうね。若ければ、功名心もあります。清宮(克幸)さんみたいにやらないと、とか余計なことを考えていたかもしれません。でも、50代になると出来ないことが見えてきますから、コーチ、選手を信頼して任せられるようにもなります。その意味では、いい時期に声を掛けていただいたと思います」