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「もう絶対に逃げません。覚悟はできました」新キャプテンの“裏切り”を、山村監督はなぜ許した?【サントリー14年ぶりのVリーグ優勝】
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byV.LEAGUE
posted2021/04/08 17:00
14年ぶりの優勝を果たしたサントリーサンバーズ。その裏には主将を務めたセッター大宅真樹の成長があった
大宅は、長崎県の強豪・大村工高から東亜大に進み、世代別の日本代表に選ばれて主将を務めたこともある。サントリーでは内定選手の時から先発で起用された。昨年は日本代表に選出され、紅白戦にも出場。難しい体勢からでも正確なトスを上げ、試合全体を考えた組み立ても光る。身体能力も高く、サーブやディグもいい。ところが、驚くほど自己評価が低く、遠慮してしまうところがあった。
今季加入した柳田に対して、大宅は最初、コンビを合わせるためのコミュニケーションを積極的に取れなかった。
「自分が勝手に、『マサさんは代表のキャプテンだし、すごい人。一個上のレベルの選手』と思ってしまって。マサさんはそういうのは一切なくやってくれているのに、僕は『自分ごときが』って勝手に思ってしまうんです」と話していた。
それでも、今リーグで勝ち星を重ねるにつれ、変わっていった。
「あまり考え過ぎなくなったというか、1つのミスを引きずることがなくなりました。自分のミスだけで負けないし、1人でやっているわけじゃない。誰かが助けてくれるし、自分がみんなを助けることもできる。単純に、バレーボールが楽しくなりました。たぶん勝ち続けていることが、自信になっていると思います」
サントリーはレギュラーラウンドで、Vリーグ記録を更新する23連勝を含む31勝3敗という圧倒的な勝率で1位となり、ファイナル進出を決めた。
ファイナル前に見せた「自信」
初めて経験するVリーグのファイナルを前に、大宅はこう語っていた。
「ファイナルで自分の弱いところが出たら……。でも、それはないと思う。そこの自信はあります。決勝戦、楽しめそう。早くやりたいです。緊張するかもしれないけど、それも含めて楽しみ。ディマ(ムセルスキー)も、『決勝はお祭りだよ。どっちが楽しめるか。だからあまり気負わずにいこう』と言ってくれた。あの人が言うと心強いですね。2チームしか行けない場所だから、楽しめなかったら損な気がする。負けても納得できるように。でも、勝つ自信はあります」
かつて逃げ出した主将とは思えない、自信たっぷりの笑みを浮かべていた。
そしてファイナル当日、大宅はいつも以上に笑ってコートを走り回った。
「1セット目の序盤は、自分自身硬さがあって、うまくトスも上げられなかったんですけど、その中でも笑顔だけは心がけていました。試合前の円陣でみんなに、『この1日を、精一杯楽しんでいこう』と声をかけて試合に入ったので。キャプテンとして、セッターとして、常にみんなから見られるポジションにいるので、表情だけは意識して今日はやっていました」
勝利の瞬間、大宅は1人、仰向けに倒れ、体を震わせて泣いた。栗山雅史や松林憲太郎が助け起こして選手たちの輪につれていくと、一番に胴上げされた。
「勝って終われて、ホッとしました。キャプテンらしいことを何かできたかと言われたら、そんなにないと思うし、みんな一番僕に気を使って助けてくれた。本当に僕がキャプテンでいいのかな?ってずっと思っていたけど、勝ってみんなの喜んでいる姿を見ると、嬉しくて、『やってきてよかった』という気持ちにすごくなりました」
それから山村監督の元に歩み寄り、抱き合って2人して泣いた。