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岩佐亮佑が“ボクシング人生最大”の敵地戦で痛恨の敗戦 「アウェーに慣れて、アウェーを忘れてしまった」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2021/04/05 17:00
岩佐亮佑(左)はウズベキスタンのムロジョン・アフマダリエフにTKO負けを喫した
思いのほか精度の高いジャブに苦しめられた
岩佐のスタートは悪くなかった。背の低いアフマダリエフに対して低く構え、ジャブを積極的に打ち込んで先制した。フットワークでかわすのではなく、しっかりパンチを打ち込んで前で相手を止める。戦略が明確に伝わってくる立ち上がりだった。
しかし、ウズベキスタンが国を挙げて開催したと伝えられたイベントでメインを任されたアフマダリエフは2回に早くも本領を発揮し始める。プレスを強めると岩佐はロープを背負うシーンが増える。力強く振り抜く強打はしのぐものの、思いのほか精度の高いジャブに苦しめられた。
もちろん岩佐は状況を打開しようと努力した。左ストレートをインから、アウトから角度とタイミングを変えて打ち込み、右ボディブローも打ち込んだ。ただし、アフマダリエフはジャブを顔面だけでなく、鋭く踏み込んでボディにも打ち込み、岩佐を下がらせることに成功していた。
「左のタイミングが合いはじめていた」。岩佐と二人三脚で歩んできた元世界王者、セレス小林会長がそう感じていた矢先の5回だった。余裕の出てきたアフマダリエフが左アッパー、右フックを打ち込むと、ダメージを負った岩佐が大きく後退。アリーナが一気に沸き上がり、声援に応えるかのようにウズベキスタンの英雄は侍に襲いかかった。
「アウェーに慣れて、アウェーを忘れてしまった」
岩佐は最初のピンチを何とかしのぎ、反撃に転じたかに見えたのも束の間、再びアフマダリエフの連打を浴びるとロープ際に後退。ブロッキングとタッキングで猛攻をしのごうとしたものの、無情にも主審が試合をストップした。止めるのが少し早いようにも思えたが、ストップのタイミングを図っていた主審に防戦一方という“止めやすい状況”を作ってしまったのだから仕方がなかった。
岩佐は試合後、自らのSNSで「あっけなく止められてしまいました。あそこまで想定出来なかったのも自分の落ち度でしたね。アウェーに慣れて、アウェーを忘れてしまった」とコメント。確かに同じ状況で岩佐とアフマダリエフが逆だったら止められていなかったかもしれない。それでも「ムロジョン選手めちゃくちゃ強かった。今までで一番パンチ力ありました、ビックリしました」と敗北を受け入れ、好漢らしく勝者を称えることも忘れなかった。