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高梨沙羅の復活の陰にあった“リセット”する勇気 「平昌五輪の後にゼロから作り直すという決断をしたから」
posted2021/04/05 06:00
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
AFLO
北京五輪を1年後に控え、女子ジャンプのエース・高梨沙羅が、悲願の金メダル獲得に向けてうれしい復活を果たした。2年に1度のノルディックスキー世界選手権が2月23日から3月7日までドイツ・オーベルストドルフで行なわれ、個人2種目でメダルを獲得したのだ。
まずは女子ノーマルヒルで2大会ぶりの銅メダル、続いて今大会から採用された女子ラージヒルで銀メダルを手にした。銀は'13年の女子ノーマルヒル以来4大会ぶり。世界選手権のジャンプ個人では原田雅彦と並び日本歴代最多通算4個目のメダル獲得となり「純粋にこの試合を楽しめた。自分のジャンプスタイルができつつある」と笑顔を見せた。
世界選手権直前にはW杯での男女歴代最多を更新する通算60勝の金字塔をマークしていた。W杯は残りの試合の結果次第で、4季ぶり、かつ男女を通じて史上初となる5度目の総合優勝も狙える。
「何かを変えないとついていけない」
復活を呼び寄せたのは、銅メダルに甘んじた平昌五輪後から再構築しているジャンプフォームだ。今年は高梨が14歳で'11年世界選手権に初出場してからちょうど10年。この間、女子ジャンプのレベルは大幅に上がり、身長171cmでパワーのあるマーレン・ルンビ(ノルウェー)ら強豪も目白押しだ。「何かを変えないとついていけない」(高梨)。悩んで下した決断がフォームをすべてリセットすることだった。
「昨年はアプローチの初速をテーマにして取り組み、今年は(ジャンプ台の)Rの入り口から踏切の部分を見直して、それが一連の動作でつながってきた。最近は踏切が安定して、同じ角度で出られるようになってきている。試行錯誤を続けてやっと形になった」
次なる修正ポイントは、大舞台の緊張の中でも着地でテレマーク姿勢を確実に入れること。高梨にとっては、W杯で連戦連勝していた10代の頃から向き合ってきた難題だ。「そのためには空中での技術をもっと磨く必要がある」と気を引き締めつつ、克服する自信をのぞかせる。
「平昌五輪の後にゼロから作り直すという決断をしたから今がある」
その思いが高梨を支える。勇気と覚悟を持って挑んだフォーム再構築。努力が実を結ぶ日は1年後にやってくる。