甲子園の風BACK NUMBER
センバツNo.1腕・畔柳亨丞と“球数制限問題” 「準決勝は121球」になっても中京大中京監督が続投させたワケ
text by
間淳Jun Aida
photograph byKYODO
posted2021/03/31 06:00
投手の肩ひじを守るため設けられた「1週間で500球以内」の制限。しかし畔柳のようなケースが起きることが今後もあるだろう
畔柳は試合を締めるまでに138球を要した
「継投は考えていた。7、8、9回なのか、8、9回なのか、9回なのかというところで考えていた」
畔柳は完封した専大松戸戦で131球を投げている。7回で降板した常総学院戦は110球。もし、この日の東海大菅生戦を7回で他の投手にバトンを渡せば、3試合で計338球。準決勝で「162球」投げることが可能だった。ところが、高橋監督は畔柳を交代しなかった。結果的に、畔柳は試合を締めるまでに138球を要した。これで、準決勝のリミットは「121球」まで減った。
それでも、指揮官には畔柳を代えられない理由があった。
「点差以上に東海大菅生の松永投手がマウンドに上がってから、なかなかうちがリズムをつくれていなかった。1つ流れが相手にいくと5、6点は覚悟しないといけないと思った。流れを変えずに、7回が終わったところで、8回が終わったところでと確認しながら。次戦ではなく、この試合でしっかり勝利を収めるためには何を最優先すべきかを考えて、最終的には畔柳を最後まで投げさせることを決めた」
中京大中京打線は、6回から登板した東海大菅生の2番手・松永大輝に手を焼いていた。9回までヒットは内野安打の1本だけ。追加点が奪えず、チームには嫌な雰囲気が漂っていた。高橋監督は、絶対的エースの交代という1つの決断が試合の流れを大きく変える恐れを感じていた。畔柳は指揮官の期待に応え、主導権を相手に渡さなかった。
完投した2試合、いずれも130球を超えている
ただ、勝利の"代償"として「球数制限」の問題と直面することになった。
畔柳は完投した2試合で、いずれも球数が130球を越えている。準決勝の明豊戦も同じペースで投げれば、試合終盤で制限の121球に達する計算だ。高橋監督はチームの投手陣について「うちの他の投手は、球速では畔柳とだいぶ差がある」と話す。大会ナンバーワンとも言われている畔柳の後に登板する投手は、力が落ちるのは避けられない。
畔柳が先発した場合、明豊は球数を投げさせるために待球する可能性もある。また、畔柳が普段は意識しない球数を気にかけて本来の投球を見失う恐れもある。