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《あの見た目で日本代表なんて》SNSで目にした差別ツイートに鈴木武蔵が返信したこと「お父さんの血がなかったら…」
text by
鈴木武蔵Musashi Suzuki
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/04/01 11:07
日本代表に招集されても続いた激しいバッシング。怒りも込み上げてきたが、冷静に自分の本心をSNSに投稿した
「日本という素晴らしい国で育った事に感謝」
これまでの自分ならば無視していただろう。しかし、日本人として、日本代表としてプレーしている以上、やり過ごすことはできないと思った。
では、どう返せばいいのだろうか。冷静に考えてみた。ここで僕が感情的になり、「こんなヒドい差別を受けました!」「こんな暴言を吐かれました!」と、ムキになって反論しても、感情のぶつけ合いになるだけだ。結局は、この発言者と同じ土俵に立つことになり、そこからは何も生まれない。
僕は黒人のハーフであることに誇りをもっているし、日本人であることに誇りをもっている。それに今、日本中には僕のように肌の色が違う子どもたちがたくさんいる。
もしも僕がここで黙り込んだり、幼稚な反論をしてしまったりしたら、僕だけではなく、そういった子どもたちにも迷惑をかけるかもしれない。それは絶対に嫌だった。だから、自分の言葉で本心をきっちりと述べるべきだと考えた。
誰に相談することもなく、その場でじっと自分自身と向き合い、必死で考えを整理した。しばらくして、自分のSNSのページを開き、自分の想いを文章に打ち込んだ。
<僕に報告をしてくれたかた、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。サッカーで見返すしかないですからね。そうやって小さい頃からやってきたので。お父さんの血がなかったら日本代表になれてなかったと思いますし、ハーフであること、日本という素晴らしい国で育った事に感謝しています> ※原文のまま
僕はこうSNSに載せた。これは建前ではなく、本心だった。
ここまで来れた原動力は「負けず嫌い」
発言した人も1人の人間だ。特定の人を攻撃したくないし、あくまでこれは僕への言葉なのだから自分がきちんと受け止めて、自分の想いのみを綴った。
この投稿のあとに、僕のSNSには大量のダイレクトメッセージが届いた。開いてみると、応援をしてくれる声以上に、あえてここでは書かないが、読むに耐えない、誹謗中傷のメッセージが山ほど届いていた。
それでも、僕は発言して良かったと思っている。
僕は自分にマイナスなことを投げかけてくる人に対しても、感謝できるような人間でありたい。もしも、周りからプラスのことしか言われない人生だったならば、僕の長所であり、最大の原動力である「負けず嫌い」の心は育たなかっただろう。
甘やかされて、向上心を失っていたら、確実に今の僕はいない。今の僕がいるのは、ネガティブなことを言われても、心の中で「絶対に負けてたまるか」「絶対に見返してやる」という気持ちが湧いてきたからだ。
さらに前に進もう、もっと上のレベルに行こうといった、内側から燃え上がる炎で、 僕は走り続けることができた。それはこれからも原動力になるだろう。
一見、自分にとってマイナスだと感じることでも、いつしかその経験がプラスになるかもしれないと思ったら、その人たちにも感謝しないといけない。
今起こっていることが、すべてマイナスじゃない。むしろ、プラスに変えてやるん だという意志が、自分を変えていく。僕はそう信じている。
だが、その一方で、気をつけなくてはいけないこともある。