「父が亡くなってから、自分に起こる全てのことには何か意味があって起こることというのをすごく実感して生きてきたんですが、父が生きてたら、私はスケートはやってないと思うんです。家族の時間をすごく大事にする人だったから、色んな時間的制約がかかるものを続けてなかっただろうなと。そういう意味で、スケーターという人生の中において父の存在は意味があったのかな」

「アスリートはどんなかたちであれ、アスリート」

　フィギュアスケート界では前例のなかった“出産から現役復帰”。周囲の厳しい声や数々の壁を乗り越えた安藤に、「いま、女性アスリートはどんな立場に置かれていると思うか」を聞いてみた。そこで繰り返されたのは、「アスリートはどんなかたちであれ、アスリートである」という言葉だった。

「これまでの見方を変えていくと、女性アスリートに対する見方も少しずつ変わっていくと思います。例えばですけど、“ママさんアスリート”という言葉も、わかりやすい表現ではあるけれど、どこか違和感があります。現実として母親になったかもしれないけど、競技の土俵に上がった時にはアスリートに変わりない。私も変な話、競技中は子どもを忘れるくらい集中しています。だから、アスリートはどんな体質であれ体型であれ、“一貫してアスリート”なんです」

　そして、日本の女性アスリートを取り巻く環境について、安藤は自身の経験を振り返ってこう話す。

「日本って、どちらかというと女性アスリートがすごく輝いている国だとは思うんですね。ただ芸術性の高い表現競技ではアイドル的に持ち上げることによって、そのスポーツを浸透させていくという独特な力があると思います。自分も悩んだところではあるんですけど、最近のフィギュア界だけみると、誰かがそういう経験をして耐えた時期がないと、そのスポーツ自体が大きくなってくれないというの真実もあるなと」

　はたして、安藤が耐えたあの時期は、後進たちに広く道を拓いたのだろうか。

世界女王になっても「まだ夢は叶えられていないんです」

　1時間半に及ぶインタビューの最後、瞳の奥の硬さが消えたように見えた安藤に、どんな未来を描いているのかと聞いてみた。「あまり未来は見ないようにしています。それもやっぱり父のことがあるので」との返事に、はっとする。保証がない未来は見ない。1秒1分を悔いなく生きる。ただ9歳からスケートをはじめた時から今まで変わらない“夢”はある。

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