SCORE CARDBACK NUMBER
「お前は一度逃げたんだ。満足するな」 サガン鳥栖で躍動する不屈のGKパギが自分を戒め続ける理由
posted2021/03/27 06:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
J.LEAGUE
開幕から残留争いは始まっている。前年の「昇格あり降格なし」を受けて20チーム制となった今季のJ1は4チームが自動降格になるため、スタートで躓きたくはない。
原川力、原輝綺ら主軸が抜けたことでかなりの戦力ダウンと見られていたのが昨季13位のサガン鳥栖。だが蓋を開けてみれば湘南ベルマーレ、浦和レッズ、ベガルタ仙台相手に開幕3連勝を飾った。いずれも失点ゼロだ。
堅守を牽引しているのが愛称パギ、GK朴一圭(パク・イルギュ)である。昨年10月末に横浜F・マリノスからレンタル移籍すると残留争いを切り抜ける原動力となった。今季から完全移籍に切り替わっている。
機動力があり、足もともうまい「動」のGKはJ3時代にはFC琉球、一昨年には横浜で優勝を経験。一つのキックやセービングによって流れを変え、チームを勢いづかせることができる。身長180cmとGKとしては小柄なほうだが、長いリーチとポジショニングで「小」を「大」に見せることにも長けている。
逃げずに立ち向かう姿勢が、チームを「勝ち」に持っていくセンスに結びつく。それは彼の背景と無関係ではないように思える。
「はっきり言ってしまえば、逃げたんです」
朝鮮大学校を卒業後の'12年、当時JFLの藤枝MYFCに入団したものの、わずか1年で退団した。クビを切られたのではなく、自らの意思によるものだった。彼がこう明かしてくれたことがある。
「気持ちは入っているつもりなのに、プレーがついてこない。いつしか自信もなくなって、大学時代にやってきたプレーが全然出せない。はっきり言ってしまえば、逃げたんです」
カテゴリーを落として関東1部のチームに移籍。自分のプレーを取り戻すためには夜のチーム練習だけでは足りないと朝から個人練習に取り組み、「この頑張りが報われなかったら俺はそれまで」と割り切れるほどに濃すぎる1年を送った。'14年、J3入りした藤枝に練習参加を経て復帰して正GKに君臨。アグレッシブなスタイルによって、その才を開花させていくことになる。
「だからうまくいったときでもいつも言い聞かせていますよ。“お前は一度逃げたんだ。満足するな”と」
“不逃不屈”をチームに落とし込む存在感は頼もしいばかりである。