濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
ジュリア「坊主頭」での出直し 元アイドルに敗れバリカン刈りも…悲壮感なき“闘う女”スタイルがカッコよすぎた
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/03/16 11:01
髪切りマッチに敗れて坊主姿になったジュリアには、その屈辱すらポジティブに変えていくタフさがある
元アイドル・中野たむにとっての髪は
賢明なジュリアは、指摘されるまでもなく気づいたのだろう。途中から自身の言葉を軌道修正もしくはブラッシュアップしている。試合が正式に決まり、あらためて髪切りマッチの意味について聞くと、彼女は「アイドル出身の中野たむがずっと大事にしてきたものを賭けさせる」のだと答えた(さくらのコメントが掲載される以前のことだ)。
女の命ではなく“宇宙一カワイイ”をキャッチフレーズとする元アイドル・中野たむの命を賭けさせる。この“テーマ設定”によって、一般論としての“髪の価値”ではなく両者の対立と関係性がよりクロースアップされたのではないか。
賛否両論は望むところ。だが「否」の声は響かないともジュリアは言った。闘う2人が覚悟を決めているのに、外野が何を言えるのか、と感じていたようだ。
武道館のリング。執念がこもったとしか言いようがない攻防を経て、ジュリアは敗れた。そこからの展開も、ジュリアとたむならではのものだった。
「ズルい、オシャレじゃん」
「あんたに勝ったからこれ以上はいらない。髪なんか切らなくていい」
涙を見せるたむに「恥かかせんなよ」とジュリア。「なんでお前が泣いてんだよ」と苦笑すると、リングに上がった美容師には「カッコよくやって」と声をかける。側頭部をバッサリと刈られたジュリアの姿を見て、たむは言った。
「ズルい、オシャレじゃん」
このやりとりが救いになった。ジュリアはたむの手を挙げ、勝利を讃えてリングを降りた。悲鳴や号泣ではなく、ある種の明るさをともなう大会のエンディングだ。ジュリアがデビューした団体アイスリボンのスローガン「プロレスでハッピー」ではないが、何があっても前向きに大会を終わるという感覚は今のプロレス界全体のベースと言っていい。ハードでシリアスな闘いを好むジュリアだが、要所で明るさ、ユーモアを発揮するタイプでもある。
「髪はまた生えてくるし、ベルトはまた奪いにいけばいい。ここから這い上がっていく生き様を見せる。それがプロレスラーでしょ」
インタビュースペースで心機一転を誓ったジュリアは、続く3月7日の後楽園ホール大会では第1試合に出場した。頭を丸めて初めての試合、いわば出直しの一戦になる。