濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
キックから“卒業”予定、那須川天心が“ポスト天心”を「キツいですよ。1人じゃ無理」と表現するワケ
posted2021/03/13 11:04
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
RISE
那須川天心の武器はパンチとキックだけではない。彼は言葉も巧みに操ってファンを魅力する。マスコミはそのコメントすべてを聞き逃すまいとし、質問によって“好打”を引き出そうとする。
2月28日、ホームリングRISEの横浜アリーナ大会で、那須川は志朗と今年初戦を行なった。試合はもちろん前日と一夜明けの会見まで含めて“天心劇場”と言ってよかった。
挑戦者決定トーナメントを勝ち上がってきた志朗との再戦は、55kg級で行なわれた。那須川にとって久々のベスト体重だ。ここ数年はこれより重い階級(契約体重)で試合をすることが多かった。体重に幅を持たせないと相手が見つからないという事情もある。
55kgのソリッドな肉体でスピードが増すだろうと、大会前日会見で那須川は言った。
「自分でも制御できるか分からない」
見出しになるコメントだ。加えて、そのスピードを「使うか使わないか」という言葉もあった。試合に向けて“謎”を残し、興味をひいたのである。
蹴りのディフェンスが優れている志朗に…
試合は那須川が判定3-0で勝利した。ポイントになったのは那須川の左ミドルキック。オーソドックス(右利き)に構える志朗に正面から当たる攻撃で、サウスポーの那須川としてはセオリー通りと言ってもいい。
ただ、そこにも“謎”があった。志朗はもともとムエタイをベースとする選手だ。ムエタイにおいて蹴りの攻防は最重要。当然、志朗は普通の日本人選手以上に蹴りのディフェンスが優れているはずではないか。なのに那須川のミドルは面白いようにヒットした。
試合後に“謎解き”をしてくれたのは那須川本人だった。
「今回のテーマは9分間(3分3ラウンド)騙すこと。蹴り中心の攻めは作戦の一つでした。志朗選手は僕のパンチを警戒している。いつもなら蹴りをカットしてくるけど、パンチを意識してる分コンマ何秒か反応が遅れるんです」