極度の不振も「今となっては財産になったのかも」

　勝利への使命感を胸に挑んだシーズンだったが、チームは5位に沈んだ。鉄平自身も極度の不振で二軍落ちを味わうなど、前年に3割を超えた打率は2割台前半に終わった。気持ちが結果につながるほど簡単な世界ではないと改めて痛感した。人生の中で最も悩み苦しんだともいえる1年。それでも、10年経った今、こう話す。

「成績が悪いだけではないもどかしさを感じた。野球以外のこともたくさん考える濃い1年だった。10年経っても2011年という数字を見ると、そのときがフラッシュバックする。今となっては財産になったかもしれません」

キャプテンとして苦しんだ1年だったが、それは今も財産だという©Kyodo News

あえて自ら当時の話を選手にはしない

　選手からコーチに立場は変わり、チームには震災当時からプレーしている選手がほとんどいなくなった。経験や考え方を継承する役割を求められそうだが、自ら当時の話を選手にすることはないという。

「東北楽天イーグルスに入団した時点で、どの選手も分かっていると思います」

　東北を背負う意識。震災からの復興や希望が託されていることを理解していない選手はいない。震災の話を口にしないのは、選手それぞれに思いがあり、自分の価値観や考えを押し付けたくないと考えているからだ。

　2011年以降、選手として勝利への意識が格段に強くなったという。

　コーチになっても、その大前提は同じ。立場が変わり新たな役割として意識しているのは、ファンを喜ばせる選手の育成。勝てるチーム、そのために必要な選手の能力を伸ばしながら「東北のファンが“球場に来てよかった”と思ってもらえるような選手を増やしていきたい」と話す。

　そして、こう言葉を続けた。

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