プレミアリーグの時間BACK NUMBER
まるで“世界一高価な頃のベイル”… 引退説や「賞味期限切れで返品必至」の酷評を吹き飛ばす復活ぶり
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2021/03/08 17:01
レアル・マドリーで不遇をかこったベイルだが、古巣トッテナムでかつての輝きを取り戻しつつある
EURO後にレアルとの契約解除での引退説まで
巷では、ウェールズ代表として出場する今夏の欧州選手権後、レアルでの契約最終年を解約しての引退説まで囁かれていた。そのような状況下でも当人は、まずは自らの体への自信を取り戻すことに注力した。
そして「終わった」という調子で報じられたシティ戦の翌週あたりから、回復の兆しを示し始めていたのである。
2月18日のボルフスベルク戦第1レグ(4-1)。ELでは移籍後7度目の先発となった64分間で、ベイルは低弾道クロスでソンの先制点をアシスト。また、相手左SBに尻餅を付かせる鋭い切り返しからチーム2点目も決めた。中2日で迎えたウェストハム戦では、モウリーニョのチームがデイビッド・モイーズのチームに敗れたことで「危機」が叫ばれたが、ベイル自身は後半頭からの45分間出場でも10点満点で8点は与えられた。
1点差に詰め寄ったトッテナムのゴールはベイルのCKに合わせたルーカスのヘディング。バー直撃の左足アウトサイドでのボレーがあり、ポストに跳ね返されたソンのシュートにつながるクロスを上げたのもベイルだった。
“世界一高価だった”頃のような一撃と味のあるパス
そして、自ら「コンディションも調子も戻ってきている」と語ったバーンリー戦では、トッテナムに戻って以来、ベイルが最もベイルらしい姿を見せた。
モウリーニョのコメントにあやかり、「銀河系」と呼ばれたレアルに引き抜かれた24歳当時のベイルが蘇ることはあり得ないかもしれないが、「現在形」のベイルでも大きな戦力となれることが確認された。
前半に絡んだ3得点には、トップレベルでの経験を通して得たノウハウが見え隠れする。2分、右インサイドで賢明にタイミングを窺いながらスルスルとボックス内中央に移動し、シンプルにソンのクロスをミートして先制。15分には自陣深くから50mほど前方にパスの出しどころを確認したビジョンと、味方の足元に届く不朽の左足ロングパスが、ケインによる追加点を生んだ。
またルーカスが決めた31分の3点目は、若い頃なら自らボックス内に切り込んでいそうな場面で、逆サイドにプレーを振ったパスが得点機に繋がるセルヒオ・レギロンのクロスを呼んだ。
加えて後半に入って55分、自身2得点目の場面では「タイフーン」と呼ばれた疾走が、完全に失われていないことを実証した。
ベイルは左サイドを駆け上がるソンに右手を上げてボールを要求しながら、エリアの縁でパスを受けると、左足での2タッチ目でカーブをかけたシュートをファーポスト内側に決めた。圧巻のフィニッシュは、世界一高価なサッカー選手となったレアル入り当時を彷彿させた。
言ってみれば、ベイル本来の味が完全に変わってしまったわけではなく、深みを増した「ヴィンテージ版」を思わせた。