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4戦無敗、期待の21歳女子格闘家・平田樹に青木真也が「俺は褒めないから」と伝えたワケ
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakashi Iga
posted2021/03/02 11:00
平田樹は「ガキには、未来しかない」と前を向き続ける
勝利した平田に笑顔がなかったのは
それがなぜだったかを考えるために、まずは試合を振り返ってみよう。主導権を握っていたのは平田だ。打撃で勝負したい中村に対し、柔道のベースがある平田は組みついてテイクダウン。寝技で中村にダメージを与えていく。中村もかなり粘ったのだが、最後は平田が得意の首投げを決め、袈裟固めの体勢からパンチを連打してレフェリーストップになった。
試合後の平田に笑顔はなかった。今回は1年ぶりの試合。世界の舞台で闘うために打撃を徹底的に磨いてきたという。オールラウンドな力がなければ、海外の強豪と渡り合うことはできない。スタンドでのKOも狙っていた。
だが、いざ試合が始まると“組み”の展開に。フィニッシュの首投げ→袈裟固めは得意のパターンだったが、平田は“新しい勝ち方”を見せたかった。それが「未来しかない」若者らしい試合だと信じた。
「試合したのにしてないみたいな、このモヤモヤが嫌です。もっとできることはあったのに、なんであの勝ち方だったのか」(平田)
「みんなが“よかったよ”と言っても、俺は褒めない」
ONE本戦では、女子トーナメントの開催が予定されていた(後日、正式決定)。そこまで見据えて、成長を示す闘いがしたいという思いもあった。
「やられ慣れるじゃないですけど、攻めるだけじゃなく攻められた時にどうするか。自分だけ攻めてる試合をしていても、いつか通用しなくなるので」(平田)
あのフィニッシュではいつもと同じだ、この試合に勝てるというだけだと青木は平田を評した。試合後には「みんな“よかったよ”って言うだろうけど、俺は褒めないから」と本人に伝えたという。
青木は『格闘代理戦争』で平田のライバルとなる選手のコーチを務めた。その番組から自分と同じONEで闘うことになった平田を、ことのほか気にかけている。自分と同じ「文脈のある格闘技」の後継者として期待しているようだ。
文脈とはすなわち“勝った負けた”の先に生まれるものだ。ひたすら勝利を追求しながら、それ以外の部分での“表現”も意識する。このところ、青木は業界が「大量生産、大量消費」になっていると指摘する。