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4戦無敗、期待の21歳女子格闘家・平田樹に青木真也が「俺は褒めないから」と伝えたワケ 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byTakashi Iga

posted2021/03/02 11:00

4戦無敗、期待の21歳女子格闘家・平田樹に青木真也が「俺は褒めないから」と伝えたワケ<Number Web> photograph by Takashi Iga

平田樹は「ガキには、未来しかない」と前を向き続ける

青木が平田に求めていた文脈とは

 観客動員、視聴率、YouTubeの視聴数にネット記事のページビュー。数字が優劣そのものと捉えられかねない中で、青木が大事にしているのが「文脈」だ。筆者と話している時に「その選手の言葉に“文学”があるかどうかですよね」とも言っていた。青木にとって平田は文脈がある選手だ。

 無名のアマチュアがABEMAの番組に登場し優勝、そこからいきなり“世界”の舞台へ。経歴としてはかなり特異なものだ。日本の小さな大会で前座試合を勝ち上がり、ベルトを巻いて海外あるいは“メジャー”へ、という、分かりやすい出世コースとは違う。下積み期間がないと言ってもいい。

 それで結果を出しているのだから文句はないのだが、やはりやっかみはあるのだろう。「ガキには、未来しかない」という言葉にも「その若さで何ができる」、「ONEなんてまだ早い」といった見られ方への反発が含まれている。

 ただこの『Road to ONE』に関しては“平田樹、1年ぶりの実戦”という以上の文脈はなかった。平田が主役、対戦する中村は相手役。そういう試合だ。

「明日から練習します。すぐに試合を組んでほしい」

 その中で中村は、愚直さと懸命さで見る者の心を掴んだ。試合前には「爪痕を残したい」と言い、実際に得意の打撃をヒットする場面もあった。

「これは平田選手の試合なんですけど、でも周りの評価を覆したいという気持ちがあって。やっぱり勝ちたかったです。誰もが経験できる試合ではないので」

 ここまでのキャリアは“勝ったり負けたり”。北海道在住、ネイリストとの兼業ファイター。中村はいわばアポロ・クリードに挑むロッキー・バルボアだった。彼女がいて初めて、この試合は“表現”になった。

 だから青木は試合後に賞を贈ったのだろう。青木が中村を称えたということも、この試合における“文脈”だ(その行間を読めば、もちろん平田への期待が含まれている)。そしておそらく、中村の次戦はこれまでになく注目されるだろう。今の中村未来は“青木真也の心を動かした選手”なのだから。 

 平田にとっても、この試合は決してマイナスではない。戦績はいまだ無傷。その上で今の自分にできることとできないこと、練習でできても試合で出せないことがあると体感できた。21歳、キャリア4戦。この時期は試合をすること自体が大きな成長を促す。

 試合をして課題が見つかって、修正してまた試合に。それを繰り返してファイターは強くなる。

「明日から練習します。すぐに試合を組んでほしいと(関係者に)お願いしました」

 そう語っていた平田に、トーナメント正式決定の知らせが届いた。これでまた心機一転。「ただがむしゃらに頑張ります」と平田はSNSに記した。

 ガキには未来しかない。だから失敗して反省して、それを活かして成長する時間もたっぷりある。

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