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交際0日で結婚→ブラジル代表コーチ中に妊娠→長男出産… 藤井裕子監督と夫のスゴい柔道指導者人生
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byNaoki Nishimura/AFLO
posted2021/02/24 17:11
2019年世界柔道での藤井裕子監督
指導者が日本人女性でも抵抗なく受け入れてくれた
「2011年夏にロンドン五輪1年前のプレ大会が行なわれたとき、ブラジル柔道連盟の関係者から、『あなたが英国選手を指導するのを見て、基本を教えるのが上手なのに感心した。ロンドン五輪が終わったら、2016年のリオ五輪までブラジル男女代表の技術コーチをしてくれないか』と誘われた。『ブラジルの柔道は、かつては日本柔道の良い部分が根付いていたが、それが薄れかけている。改めて、選手たちに基本を叩き込んでほしい』と……。とてもやりがいがある仕事だと思い『前向きに検討します』と答えました」
――ブラジル柔道の印象は?
「選手が非常に元気で、エネルギッシュ。身体能力が非常に高く、闘争心がすごい。
ロンドン五輪後、お試しで1カ月ほどブラジルに滞在し、各地を回りました。ブラジルでは柔道が人気スポーツであること、指導者が日本人女性であっても皆、抵抗なく受け入れてくれることに感銘を受けた。『この国ならやっていけそうだ』と思い、ブラジル五輪委員会と契約を交わしました」
――それから日本へ帰国したわけですね。
「そうです。年末に帰国して陽樹さんを両親に紹介し、『この人と結婚して、一緒にブラジルへ渡って、柔道のコーチをします』と伝えました」
母から「妊娠、出産はもっての外」と
――ご両親はすんなり理解し、賛成してくれたのでしょうか?
「いや、そうではなかった。母から、『陽樹さんと結婚するのはいい。でも、ブラジルへ行ってから子供を身籠ったらコーチの仕事に差し支える。ブラジルへ行くのなら、妊娠、出産はもっての外ですよ』と釘を刺されました。
日本では、ほとんどの人がそう考えるのかもしれない。でも、私はジェーン・ブリッジが妊娠中でも柔道の指導をしていたのを知っていて、自分もやってできないことはないと思っていた。ただ、そう言っても母親はすぐには納得してくれないだろうし、そもそも妊娠するかどうかもわからない。だから、そこはあえて突き詰めて話さなかったです。
2013年1月に結婚式を挙げ、2人でブラジルへ渡る準備を進めました」