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聞く耳は持たず、ただ引っ張るのみ…吉田義人が「明治史上最高の主将」になるまで【同期“幻のキャプテン”の告白】
text by
藤島大Dai Fujishima
photograph byMasato Daito
posted2021/05/01 17:01
早大との大学選手権決勝では伝説の逆転トライを決めた吉田義人
好漢、西原在日は「ガーン」と衝撃を受けた。でも好漢だから思い直した。
「あのときの明治には緩んだところもありました。北島先生は思ったのでしょうね。ここで爆弾、とんでもない爆弾を仕掛けないとチームがひどいことになると」
あとで北島監督に呼ばれた。
「吉田を支えろ」
好漢はもっと好漢になった。
「あの一言で先生の意思を感じました。このチームは吉田なんだと」
練習のおしまいを知っているのはキャプテンだけ
爆弾炸裂。トン数は無限。地響きの立つ練習が猛然と始まった。
「上司が帰らないと部下も帰れない。職場でよくありますよね。あれとは違う。机でにらみを利かせるのでなく上司がいちばん働くんです。その背中を見る。胸を打たれました。引っ張られますよ。絶対に勝とうという気持ちになりましたもん」
グラウンドを何周も何周も走る。おしまいを知っているのは先頭をゆずらないキャプテンだけである。
「早稲田、慶應と1年生の試合をすると必ず明治の大勝でした。それが4年で互角の関係になる。彼らの成長は称えられるべきです。でも明治は何をしていたのかと見ることもできる」
息が上がるまで駆ける。まずはそこからだ。他方、理屈も注入された。曜日ごとに「フォーカスする部分が盛り込まれていた」。全体像を把握しているのは吉田主将ひとりだが、西原、冨岡の両副将には開始前に細部の相談があった。
「吉田は日本代表でコーチングを受けている。それを練習に反映させていました。よく考えていた。対戦相手のビデオも見るようになりました。私も入学以来初めてバックスが動きやすいようプレーしましたよ。吉田がトライできるようにと。それまでは突っ込むだけ。あの最後のトライも練習通りだったんです」