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高校サッカー“ロングスロー論争”は英国でも賛否 「一か八か」「目の前の結果ではなく…」デラップ砲は根強い人気
text by
田嶋コウスケKosuke Tajima
photograph byGetty Images,Naoki Morita/AFLO SPORT
posted2021/01/10 17:03
そのチームにおける得点の可能性が高まるのならば……高校サッカーもデラップも、ロングスローが有効な戦術だといえるのだろう
ベニテス監督の言葉通り、イングランドの伝統はキック&ラッシュ。一昔前のイングランドサッカーでは“放り込み”が多く、ロングスローもその延長線上にあると捉えていい。それゆえ、前線に長いボールを入れることでチャンスが生まれる可能性が50%あるなら、英国人のピューリス監督が「勝負所」と考えたのは当然だろう。
デラップという超人的なロングスロワーがチームにいるなら、なおさらだ。
クロップはスローイン専門コーチを雇ったが
その一方、外国人監督が数多く指揮を執る今のイングランドでは、少しばかり空気感が異なる。ベニテス監督の当時の言葉を借りれば、「ボールを失う確率が50%あるなら、足元にしっかりつなぐべき」。2018年、ユルゲン・クロップ監督率いるリバプールがスローイン専門コーチを雇ったことが話題になったが、ロングスローを見せることはまずない。
重点が置かれているのは、選手間の連動した動きから、フリーでボールを受ける選手をつくること。バスケットボールのスローインのように、動き方のパターンをいくつも作ることで有効活用しようとしているのだ。
イングランドの育成年代ではどんな位置づけ?
さて、日本の全国高校サッカー選手権でロングスロー論争が起きているが、イングランドの育成年代では、どのような位置づけなのか。
例えば、18歳以下で繰り広げられるFAユースカップや、若手選手の研鑽の場であるU-23プレミアリーグで、ロングスローはほぼ見かけない。その理由について、英紙サンデー・タイムズでサッカー部門の主筆を務めるジョナサン・ノースクロフト記者は次のように語った。
「FA(イングランドサッカー協会)がまとめた指導方針では、今の育成年代ではポゼッションと技術力向上に重点が置かれている。かつてイングランドの代名詞だったキック&ラッシュの戦法は遠い昔の話だ。少し乱暴な言い方をすれば、育成年代のチームは、勝利の結果だけにこだわっていない。結果よりも選手の成長に重きを置き、ポゼッションベースの正しいサッカーをすることを心がけている。
FAユースカップで優勝しても、かつてあったような名誉はない。23歳以下のプレミアリーグで頂点に立っても、ほとんど話題にならない。目の前の結果でなく、その先の成功を目標としているからだ。それゆえ、試合でロングスローはほとんど見ない」
「ただし」と、同記者は付け加える。