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「乾には何も教えるな」2005年度選手権優勝、野洲《セクシーフットボール》の陰にいた知られざる“天才軍師”
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byYUTAKA/AFLO
posted2021/01/05 06:00
高校生にして観客を楽しませることを意識していた野洲イレブン。決勝の先発メンバーから青木孝太、荒堀謙次、乾貴士ら6人がプロに
最後の仕上げの段階で、岩谷は野洲クラブ出身の1人に目をつけた。決勝戦でゴールをアシストすることになる中川だ。
「最後のピースとして犠牲的精神を持つやつを探していた。中川のスタミナを見てこいつだと思った。平原や乾が自由にできたのも中川がいたからこそ。その中川が決勝のアシストで火を噴いた。俺に言わせたら、優勝の立役者は中川なんですよ」
優勝から14年。野洲の鬼才は、いま……
優勝が決まった直後、岩谷は選手たちから胴上げをされた。
「高校生に胴上げされたら、俺って軽いんやと思った。嬉しかったね」
平原にも特別な思いがあった。
「山本監督にもかなり助けられていたんですけど、セゾン組の中には岩谷さんがいたからみたいなのがめちゃくちゃ強かったから。あのメンバーでやれて本当に幸せです」
あれから14年――。岩谷は10年目に野洲に区切りをつけ、現在はセゾンの総監督を務めつつ、指導者の育成に力を入れている。
「指導者を育てるのは難しい」と感じているが、息子・倉貫一毅(現徳島ヴォルティスユース監督)を自分の後継者として見ている。倉貫はセゾンから静学に進んでジュビロ磐田などでプレーした元Jリーガー。セゾンの評価を上げた先駆者だ。
「俺を追い越すのは息子かな。俺はアホなじじいになりたい」
68歳。子供たちに恐れられた鬼才は、ニヤリと笑った。