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「乾には何も教えるな」2005年度選手権優勝、野洲《セクシーフットボール》の陰にいた知られざる“天才軍師”

posted2021/01/05 06:00

 
「乾には何も教えるな」2005年度選手権優勝、野洲《セクシーフットボール》の陰にいた知られざる“天才軍師”<Number Web> photograph by YUTAKA/AFLO

高校生にして観客を楽しませることを意識していた野洲イレブン。決勝の先発メンバーから青木孝太、荒堀謙次、乾貴士ら6人がプロに

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木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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YUTAKA/AFLO

新型コロナウイルスが猛威をふるうなか、冬の風物詩となった全国高校サッカー選手権大会が昨年末に開幕し、佳境を迎えようとしている。そこで、高校サッカー史に残る“名チーム”を振り返る記事を特別に公開する。

'05年度、当時としては異例のスタイルで優勝を遂げた野洲。決勝点は彼らの魅力を端的に表わす流麗なものだったが、当事者にとってはごくごく当たり前の形でもあったという。あの魅力的なチームはなぜ生まれたのか。ルーツを探った。
【初出:Sports Graphic Number 995号(2020年1月17日発売) 野洲「異端の軍師が生んだセクシーフットボール」/肩書などはすべて当時】

 まるで芸術作品のようなゴールだった。

 2005年度、第84回高校選手権決勝、野洲対鹿児島実業。延長後半7分、田中雄大(現ブラウブリッツ秋田)の自陣でのパスカットから、それは始まった。

 田中の左足から弾丸のようなサイドチェンジが放たれ、乾貴士(現エイバル)がピタリと止めて中央へドリブルを始めた。

 真骨頂はここからだ。乾は敵が近づいた瞬間、ヒールキックで背後にパス。平原研がすぐさまスルーパスを送り、駆け上がったボランチの中川真吾が折り返し、最後はFW瀧川陽が決勝弾を叩き込んだ。

厳しさは尋常ではないけど「カッコいいじゃないですか」

 野洲は初優勝を果たし、「セクシーフットボール」という名とともに山本佳司監督は時の人になった。

 ただし野洲スタイルに光が当たる一方で、なぜあれほどまでに魅力的なチームが生まれたのかはあまり知られていない。その裏には“天才軍師”岩谷篤人の存在がある。

“野洲の10番”平原が地元の街クラブであるセゾンFCの岩谷監督に出会ったのは小1のときだった。

「岩谷監督は最初はそこまで怖くなかったんですね。でも小3から一気に厳しくなって。怒られるから練習に行きたくない。辞めたいと監督に言ったこともありました」

 厳しさは尋常ではなく、ミスをしたら怒号が飛ぶ。1学年下の乾もセゾンに小1から通っていたが、何度も辞めようとした。

 それでも2人は留まった。なぜか?

「岩谷さんってカッコいいじゃないですか。それにやっぱり上手くなるんですよ」

コーチに「乾には何も教えるな」と通達

 岩谷の指導法の一端は、現在“野洲ドリ”として全国的に普及している。厳選したドリブルメニューを日々繰り返すもので、バランス感覚が磨かれる。

 ただし、真髄は他にある。岩谷がこだわるのは人としてのスタンスだ。「指導者の言うとおりにしたらいい選手にはならへんで」と常々言っている。

【次ページ】 選手たちが「同じ高校に進んで、日本一を目指そう」

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