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「厳しい世界で生き残るために必要なものって?」中村太地七段が思わず頷いた、26歳吉沢亮の“回答”とは
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byNanae Suzuki
posted2020/12/25 11:06
若くして活躍するお二人の特別対談。俳優の吉沢亮さん(左)と、棋士の中村太地七段(右)
中村 2013年の王座戦は本当に悔しかったですね。相手は羽生先生で、先に3勝しなければいけないんですが、2勝まで追い詰めたのにそのあとどんでん返しみたいな大逆転をされてしまって。その前にも棋聖戦で羽生先生と対戦して1勝もできずに負けてしまったこともあってか、毎日夢に見るほど落ち込んだのを覚えています。まさに絶望でした。
吉沢 たしかにこの舞台は初めて絶望した時かもしれないです。
中村 それは?
吉沢 初めての主演舞台だったんですが、千何百人入るような大きな舞台でやらせてもらったんです。だけど、全然お客さんが入らなくて、400人くらいしか入ってない日もいっぱいあったんです。しかも、主演なのに周りをまとめることもできなくて。その時に初めて自分の実力に絶望したというか。
中村 そうだったんですね。
良い意味で「大河だから」とは考えない
――その悔しさをバネに、中村七段は三度目の正直で2017年に羽生王座へ挑戦し見事タイトルを獲得。一方の吉沢さんも、活躍の場が増えていきます。
吉沢 あの初舞台の時にやっと自分の中で“火がついた”んだと思います。俺はこれでやっていくんだっていう思いになったというか。
中村 今振り返ると、2013年の王座戦の時は最大限の努力をできてなかったんだと思います。どこかで知らないうちに自分にブレーキをかけてしまっていたというか……。やれることをすべてやって、それでも負けたらそれこそもう立ち直れないとか考えてしまっていたんだなと思います。
吉沢さんは今たくさんお仕事されていて、プレッシャーに押しつぶされそうになった時どうしてるんですか?
吉沢 とりあえず「全力でやってみる」というのを大切にしています。それこそ今、大河ドラマ(『青天を衝け』渋沢栄一役で主演を務める)の撮影をしているんですが、明らかに「自分の力量、キャパを超えているんじゃないか?」と思う瞬間は結構あるんです。でもそのことばかり考えていると、自分のキャパにあるものすら出てこないような気がしていて。
だから、良い意味で「大河だから」「この作品は大きいから」とかあまり深く考えないでやっています。気づいたら壁を乗り越えているというか、目の前にある壁を壁だと思わず、普段通りにやろうと心がけています。
「けっこう平気でサボる人間です(笑)」
中村 なるほど。それは一番強い人の心の持ち方ですね。
……なんかこうしてお話ししていると、すごく達観されている部分が多いなと思うんですが、それは俳優になる前からなんですか?