「僕らぐらいの年になるとね、みんな話すことは自分のことばっかり」

　監督も、選手から教わって成長させてもらっているという。

「僕にとっての教育は、『共育』なのかもしれないね。共に育つ。上から目線はよくない。僕たち指導者も、実は選手たちから教わること、気づかされること、毎日のようにあるもんね。相手の頭の上しか見えないもんね」

「人を残すことだよ。だから、僕は幸せ。いつもこうやって、どうしたら人を育てられるのか。そればっかり考えていられる。僕らぐらいの年になるとね、みんな話すことは自分のことばっかり。病気、老後、昔の自慢話。それなのに、あずかってる学生たちをこれからどう育てていくか、それを考えられる自分がすごく幸せだと思うね」

　取材を終えて、光球寮の玄関まで見送ってくださった岸監督とその仲間たち。

　晴々とした表情の監督の右には、奥さま・城子さんの包まれそうな温かい笑顔。2人の左右を囲むように、各学年のマネージャーさんたち。まるで、両親のもとを訪れた親戚でも見送るような自然な笑顔が並ぶ。

　きのう今日で、形だけでっち上げたようなわざとらしさ、ぎこちなさがどこにもない。

「岩井さんより先に上がるのかぁ」

「岩井さんも頑張るよね……岩井さんも同い年だからね」   

　今日の対戦相手の国際武道大学・岩井美樹監督（65歳）も、これまで何度となく闘ってきた同期のライバルだ。

「岩井さんより先に上がるのかぁ」

　でも、まだやるんでしょ……そう振ったら、

「そうだね……まだやれると思うよ。体だって悪いとこないし、足の筋肉だって、まだちゃんとしてるしね」

　そうさ、何より、その「目」がギラリとしている。  

　岸監督が選手たちと長く住み続けた「光球寮」も建て替え。来年には新築7階建で完成するという。

　きっとその頃、どこかのグラウンドに立って、変わらないあのギラリとした眼差しで、大学生なのか、高校生なのか、選手たちにニラミを利かせているに違いない。

　そう思わないことには、この年の暮れ、ちょっとさみし過ぎる。