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上沼恵美子も「ごめんね」 M-1新王者マヂカルラブリーが勝った「ネタ順ギャンブル」とは【審査員・全採点表も】
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byM-1グランプリ事務局
posted2020/12/21 17:45
2020年のM-1を制したマヂカルラブリー。3年前、「よう決勝まで残ったな」とコメントした審査員の上沼恵美子も「ごめんね」と語っていた
史上最高と言われた前回大会でやや蚊帳の外にいたのが、トップバッターで最下位になったニューヨークだった。だが、芸人の間では「陰のMVP」との声が多いようだ。採点は低かったものの、審査員の松本人志に「笑いながらツッコむの、好きじゃない」と言われたツッコミの屋敷裕政が「最悪や!」と切り替えしたとき、大きな笑いが起き、会場が一気に温まったからだ。
コロナ禍で例年より観客が減った中で
だとすれば、今大会のインディアンスはトップバッターとして最高の仕事をした。コロナ禍において観客をかなり減らした今大会。スタジオの雰囲気がやはり例年とは大きく違ったからか、歴戦の雄である審査員たちもオープニングトークではやや盛り上げきれなかった感がある。
そうしたなかで“笑神籤”が引き寄せた1組目が、インディアンスとなった。敗者復活戦ですでにひと仕事終えていた彼らは肩の力が抜け、勝ち上がった勢いそのままに、とにかく楽しそうに、幸せそうに漫才を披露し、会場から笑いを引き出した。出番がもう少しあとなら、ひょっとして……と思うほどに。
インディアンスが温め、東京ホテイソン(点数こそ伸びなかったが、会場ではウケていた)が繋いだ熱気は、ニューヨーク、見取り図がさらに盛り上げ、おいでやすこが、マヂカルラブリーで頂点に達した。ところが、その後は徐々に落ち着いてしまい、視聴者による優勝予想で筆頭だったアキナ、爆発力のある錦鯉をもってしても、大きく盛り返すことはできなかった。
漫才は“生き物”だと言うが、1組目から10組目までのファーストステージの約2時間半の流れも、まさに“生き物”だと感じられた。
身体を張った“コント漫才”や大声を張り上げる“音曲漫才”など、変則的なスタイルが高得点を叩き出したのは、漫才の王道である“しゃべくり漫才”を極めたミルクボーイやかまいたちが優勝を争った前回大会の反動という側面もあるかもしれない。
マヂカルラブリーの戴冠によって、“コント漫才”の流れに拍車がかかるのか。それともカウンターとして極上の“しゃべくり漫才”が待ったを掛けるのか。
今大会は「レベルが低かった」という声もある。たしかに極上の“しゃべくり漫才”はなかったし、かまいたち、和牛といった安定感抜群の実力者もおらず、本命不在の大会と言われていた。
だが、史上最高だった前回大会が異常なほど面白すぎたのだ。史上最高の大会を作り上げた演者の一員でもあるインディアンス、ニューヨーク、見取り図、オズワルドは、間違いなく去年より面白かった。
漫才は“生き物”である以上、M-1も“生き物”である。演者も観客も審査員も、世相も笑いも変わり続けるから面白いのだ。
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