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上沼恵美子「よう決勝残ったな」&松本人志「僕は好きじゃない」…M-1審査史に残る2大“酷評コメント” 

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ラリー遠田

ラリー遠田Larry Toda

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photograph byM-1グランプリ事務局

posted2020/12/20 06:02

上沼恵美子「よう決勝残ったな」&松本人志「僕は好きじゃない」…M-1審査史に残る2大“酷評コメント”<Number Web> photograph by M-1グランプリ事務局

2年連続で決勝に進出したニューヨーク(嶋佐和也、屋敷裕政)

 1番手で比較対象がないものの、全体的に点数は伸び悩んでいた。最終的な結果も10組中10位の最下位だった。だが、審査員の多くは彼らのネタを低く評価していたわけではなかった。

 このとき、今田は立て続けに5人の審査員に話を振っていた。5人はニューヨークの漫才をそれなりに高く評価して、好意的なコメントをしていた。5人が話をした後、最後に松本がコメントを求められた。彼だけが「82点」という極端に低い点数をつけていたからだ。そこで松本は答えた。

「まあ、僕の好みなんでしょうけど、最近ツッコミの人って、結構こう笑いながら楽しんでる感じが、僕はそんなに好きじゃないんですよ……」

「最悪や!」「俺の話、聞けや!」

 松本が話している最中に、割って入るようにニューヨークの屋敷裕政が「最悪や!」と叫んで肩を落とした。そのタイミングの良さにドッと笑いが起こった。

 その後も松本は話し続けようとするが、ニューヨークの2人は落ち込んでいて耳を貸さない。業を煮やした松本が「俺の話、聞けや!」と叫んだが、それでも彼らはすねた態度を崩さなかった。

 屋敷の「最悪や!」というコメントを聞いた瞬間、私は震えた。そもそも、現代お笑い界の帝王である松本が自分たちに話しかけてくれている最中に、割って入って何か言うこと自体が並大抵の度胸ではない。そこで笑いを起こし、強引に自分たちの空気に持っていったのもすごい。彼らの尋常ではないスキルの高さを感じた。

 実際、このやり取りが業界内で評価され、ニューヨークはテレビ出演の機会を増やした。この年のファイナリストの中では、ミルクボーイ、かまいたち、ぺこぱの「3トップ」には及ばないものの、彼らに次ぐ躍進を見せている。

 そして今年、マヂカルラブリーとニューヨークの2組はいずれも決勝に駒を進めている。マヂカルラブリーは上沼との因縁を、ニューヨークは松本との因縁を、テレビやライブでもたびたびネタにしてきた。

 酷評された芸人が再び決勝に出ることで、新たな物語が生まれる。『M-1グランプリ』は壮大な歴史をつむぐ大河ドラマである。だからこそ毎年目が離せないのだ。

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