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新しい地図・香取慎吾×パラアーチェリー 福知山線脱線事故に巻き込まれた岡崎愛子が目指した「東京」
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byTakuya Sugiyama
posted2020/12/24 06:00
半日以上、床で絵を描き続けるという香取(左)のエピソードを聞いた岡崎は「アーチェリーに向いてますよ」と笑った
どんなに緊張する瞬間でも「終わる」
香取 でも、東京パラはお客さんもたくさん入るから集中するのが難しそうで。
岡崎 そうなんです。普段の試合にお客さんはほとんど来ないので、「ここで9点以上を取らなきゃいけない」みたいな状況を脳内で作り出してイメージトレーニングしています。それでも、今からすごく緊張していて、予選の1エンド目の1射目引けるかなって……。とても心配です。香取さんはここが大事という場面を今までたくさん経験されてたと思うんですけど、心の持っていき方ってどういう感じですか。
香取 そうですね……。ここで決めなきゃいけないっていう状況をいっぱい経験した今だからこそ言えるんですけど、どんなに緊張する瞬間でも「終わる」んですよ。だからその一歩先、終わったあとのことまで想像するんです。
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たとえばアーチェリーなら1射目を打つときのことしか見えなくてガチガチになっちゃうんだけど、もうちょっと先を見ると、打ち終わったあとにすげー良かったじゃんて思ってる場面も絶対に来る。僕だったらコンサートで舞台に立つ前に、歌ってる瞬間を想像すると緊張する。でも、歌い「終わって」、マイクを音声さんに渡し、階段を下りながらありがとうって言うとか、そのあとはたぶんあの店に食事に行くかな、とかまで想像すると、緊張してる場面がどんどん後ろに行く。緊張する場面なんて一瞬で終わるんですよ。イメージを現実が超えていくんです。言葉にするのが難しいけど、伝わりますか?
岡崎 すごくわかりますし、参考になります。ちなみに、今まで一番緊張したことって何ですか。
香取 今はあんまりないけど、バラエティ番組で「3、2、1」で何かに挑戦しなきゃいけない、みたいなのが一番緊張しますね。東京ドームで歌うよりも緊張する。むしろ、ライブとか緊張しそうな状況はすごいリラックスできます。5万人の前で1人で座ってても平気だと思う。ステージの上であぐらかいて、「みんな元気?」とか普通に話せるんです。むしろ癒しの場所っていうぐらい。きっと変な感覚ですね。
岡崎 信じられないです(笑)。
香取 そういう場所で、生きてきたって感じです。
岡崎 普段の生活で、そんなに緊張する場面ってないんですよね。だから想像できていなかった。東京パラにはすごく人も来るだろうしって不安ばかりが先行していたんですけど、その1射目が終わった後までイメージして本番を待ちたいと思います。
<協力>
hair & make-up by Arisa Ikuta
styling by Akino Kurosawa
衣装提供:ヨウジヤマモト(ヨウジヤマモトプレスルーム)
本連載は約2カ月に1度の掲載、次回は2021年1月21日発売号の予定です。(※日本財団パラリンピックサポートセンターとの共同企画です)
岡崎愛子Aiko Okazaki
1986年1月10日、大阪府生まれ。2005年のJR福知山線脱線事故で頸髄を損傷。13年にパラアーチェリーを始め、昨年の世界選手権で3位となり代表に内定した。今年2月の世界ランキングトーナメントで優勝。(株)ベリサーブ所属。
香取慎吾Shingo Katori
1977年、神奈川県生まれ。2021年1月より、テレビ東京では33年ぶりとなる主演ドラマ『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~』が開始。稲垣吾郎、草なぎ剛とともに出演するABEMA『7.2 新しい別の窓』スペシャルは元日放送。