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「もうダメだ…」挫折した神童に「自分で考えろ!」 テコンドー五輪代表3人“大東文化大テンション”
posted2020/12/08 11:01
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Sachiko Hotaka
「元気出して! 声出して!!」
練習場に東京オリンピック男子-68kg級代表に内定している鈴木リカルド(大東文化大)の声が響き渡った。傍らには実兄で同五輪男子-58kg級代表の鈴木セルヒオ(東京書籍)や女子-49kg級代表の山田美諭(城北信用金庫)の顔も見える。
11月下旬、大東文化大テコンドー部の卒業生と一部の現役は、窓を開けているせいで見学者がブルッと震えるほど肌寒い柔道場で稽古に励んでいた。ソーシャルディスタンスを保ち、30分おきの休憩ごとに手洗いとうがいを徹底している。大学の体育館は在学生なら使えるが、卒業生はコロナの時代となった現在入構規制がかかるようになったため、リカルドなど一部の在学生とともに別の場所で練習するようになっていた。
今度はセルヒオが吠えた。
「気合い出して! 根性出して!!」
声を出すことでみんなを引っ張り、気持ちがひとつになったうえで汗を流す。ランニング中は誰からともなく「We can do it」といった言葉を発していた。大東文化大テコンドー部の金井洋監督は胸を張る。
「練習のテンションは最初から高い。それはウチの持ち味」
日本代表は4人中3人が大東文化大出身か在校生
東京オリンピックに出場できるテコンドーの日本代表は4名。そのうち3名が大東文化大の出身か在校生だ。いったい同大の強さの源は何なのか。
セルヒオと山田は「5年前、リオデジャネイロ・オリンピックの予選前にメンタルトレーニングを取り入れたことが大きい」と口を揃えた。
山田が「それまでは練習中には笑ったらダメみたいな雰囲気だった」と証言すると、セルヒオも「ストレッチをするときも誰も話さない。シーンとしていた」と相槌を打つ。
「そのメンタルトレを受けてから気持ちの整え方や練習中いかにポジティブな言葉を発することが大事なのかということを学びました」
その効果は絶大だった。少なくとも選手の意識は大きく変わった。どんなハードなトレーニングにも、時には笑顔を見せながら前向きに取り組むようになったのだ。個人競技ながら、大東文化大が強くなった理由の第2はチームワークか。山田は「結構チームみんなでやっているということも大きいかも」と言う。
「みんなで刺激しあいながら、切磋琢磨して強くなっていく。そういうのはすごくあると思う」