マウンドに上がるのは、ストッパーの岩瀬仁紀かもしれない……。

《さすがに完全試合をやっている投手を代えないでしょうと思いながらも、なぜか最後は岩瀬さんで締めるんじゃないかという気がしたんです。それは岩瀬さんが絶対的だったということもありますけど……やっぱり、落合さんでしたから……》

　金子の想像の根拠は、中日の監督・落合博満が放つ空気だった。ヒルマンが掲げた「エンジョイ・ベースボール」の下、ミスを怖れない解放的な日本ハムベンチに比べて、中日からは、ひとつのミスも許さないという緊迫を感じた。その厳粛なオーラの元を辿ると、ベンチに座ったまま、眼光だけを光らせている落合に行き着いた。

　その印象が、普段なら浮かぶはずのない想像になった。山井か、岩瀬か。金子は心を揺らしたまま、バットを手に取った。

「9回は岩瀬が来る」

　その予感は確信に近かった。

ヒルマン「なんでパーフェクトに抑えている投手を代えるんだ？」

　日本ハムのヘッドコーチ白井一幸は8回裏の時点で、ヒルマンに耳打ちしていた。

「9回は（左の）岩瀬が来ると思います。だから右の代打を用意した方がいいです」

　その予感はほとんど確信に近かった。

　ヒルマンは「なんでパーフェクトに抑えている投手を代えるんだ？」と首を傾げた。当然だろうと、白井は思った。だからこそ自分が意見しなければならないのだ。

　白井がヒルマンと出会ったのは1997年、ヤンキースのマイナーにコーチ留学をしていた頃だった。勝つための戦術を緻密に練りながら、ミスを責めない指導スタイルに惹かれた。その後、日本ハムから監督のオファーを受けたヒルマンに請われた。

「シライ、お前がヘッドコーチをやらないなら、俺は日本には行かない」

【次ページ】　「山井がそのまま投げるかもしれません。でも……」