フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
NHK杯圧勝した鍵山優真 親に容姿も似て、良い部分を受け継いだ“2世スケーター”の劇的進化
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph by Koki Nagahama - ISU via Getty Images,Yukihito Taguchi(in the article)
posted2020/12/02 17:02
ライバル佐藤駿らとの争いとなったNHK杯で圧勝した鍵山優真
人間が不老不死の存在だったなら、正和氏があのまま今のルールに合わせて進化し続けていったらもしかして今の優真選手のようなスケーターになっていたのだろうか。自分の長所を次世代に引き継ぎ、現代版に進化させた指導者としての正和氏も、素晴らしいと思う。
チャンピオンらしい受け答えに場内も拍手
会場内での優勝者インタビューで鍵山は、「おとうさんに、常にチャレンジャーだからと言われたので、思い切りやることができました」と嬉しさを表現した。
その後インタビューアーに、「オリンピックに出場したおとうさんも、NHK杯のチャンピオンにはなれなかった。そこでチャンピオンになった感想は」と聞かれると、「そうだったんですか」と一瞬絶句した。これまで何度も、父の正和氏が素晴らしい選手であったことを誇りにしていると口にしてきた彼にとって予期せぬ質問だったのだろう。「うーん」と何度かうなって、苦笑いし、「今、急に言われちゃったので、何にも言葉が出てこないんですけれど」「でも、おとうさんのリベンジという意味でも、今回は果たせたんじゃないかなと思っています」と締めくくった。はらはらしながら見守っていた場内の観客から、拍手が沸いた。
17歳らしい純粋さ、無垢さを残しながらも、きちんと自分の考えを言葉にできている。こうした対応も、新チャンピオンに求められる重要な資質だ。
次は全日本へ
12月後半には、長野で全日本選手権が開催される。そこでは羽生結弦、宇野昌磨も出場が予定されている。昨年のこの大会で鍵山はジュニアながら3位に入り、この2人と並んで表彰台に立った。
自分のスケーティングはまだ完全なシニアの滑りではない、と冷静に自己分析しながらも、「全日本では、SP、フリーともノーミスを目指してトップを狙いたい」と明言した鍵山。たとえ相手が羽生結弦という巨人でも、気後れする様子を見せないのは競技者としての彼の稀有な資質を表している。「オリンピックを目指すには、全日本でもトップにならなくてはならないので」「課題はたくさんあるので、対等に戦えるように頑張りたいです」と頼もしい闘志を見せた。
タラ・リピンスキーは「今シーズンは、来季のオリンピックに向けてのオーディションも同然。ここで思い切り、ジャッジに売り込むことが大切。そしてユウマはまさにそれをやってのけた」と高く評価した。良い波にのっている彼が、全日本選手権でどのような演技を見せてくれるのか楽しみだ。