球道雑記BACK NUMBER
「サンキュー、幕張!」ロッテ戦力外通告、細谷圭が人知れず苦しんだ“1年目の夏”とは
text by
永田遼太郎Ryotaro Nagata
photograph byKYODO
posted2020/11/27 17:04
11月4日、千葉ロッテから戦力外通告を受けた細谷圭選手
18歳の細谷がオフを利用して向かったのは……
筆者が彼と出会ったのは今から15年前。2006年の千葉ロッテ鴨池二軍キャンプのときだ。当時、千葉ロッテのオフィシャル携帯サイトの記者として、初めてキャンプ地に飛ばされた筆者は、この年のルーキーだった細谷圭と初めて言葉を交わした。
今も記憶に残っているのは、彼がキャンプのオフ日を利用して、鹿児島県南九州市にある知覧特攻平和会館まで一人で足を延ばしたこと。
「同年代の人達がどのような想いで特攻機に乗ったのか。それが知りたくて……」
その言葉に18歳とはとても思えない古風な匂いを感じ取り、それ以降、彼とは取材で顔を合わせる度に野球以外の話もさせてもらった。球場で会えば、いつもフランクに向こうから声をかけてくる。
「最近、また太ったんじゃないですか?」
そんな人懐っこい性格だから誰かに嫌われるようなタイプではない。担当記者からはいつも可愛がられ、先輩との上下関係も上手くやれている。彼を見る度にいつも、そう感じていた。
しかし、後から意外な真実を知った。プロ1年目の夏、彼が人知れず苦しみ、精神のバランスを崩したというのだ。
人知れず苦しんでいた“1年目の夏”
「単純に新しい環境に対しての対応能力がなかったんだと思います。それまでは寮にも入ったことがなかったし、高校ではお山の大将でやっていたわけじゃないですか。悪く言えば雑な高校時代を過ごしていたと思うんですよ。1年秋には試合にも出ていたしね。
そこからプロの競争社会に放り込まれたときに、自分では対応し切れなくなっちゃって、『どうしたら良いんだろ?』となっちゃったんだよね。どちらかと言うとプロのレベルについていけない不安から、徐々におかしくなっていったんだと思う」
前述のとおり、彼は会う度にいつもフランクに接してきたし、そんな素振りは一度も見せたことがなかった。
「結局、そこも弱いからなんだよね。周りに知られたくないから、ただ他人に知られたくないから表には出さない」
その年入団した高卒野手は細谷ただ1人で、比較的年齢が近い西岡剛、今江敏晃らは、すでに一軍で活躍する中心選手。孤独感が彼を襲った。
「場所は(出身の群馬と)同じ関東で、埼玉ではあるけれど、環境も別世界のようで付いて行けなかった。練習量も、自分の技術レベルもそう。まあ甘かったんだよね。考えが……。甘いから全部そこで差し込まれてしまった」