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「ハミルトンが勝てるレースではなかったのに…」 競争力が低いマシンで最多王座を決めた“特別な何か”
posted2020/11/20 11:02
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
ルイス・ハミルトン(メルセデス)が制したF1第14戦トルコGPは、後世に語り継がれる名レースとなるかもしれない。
このレースに勝利してドライバーズタイトルを確定させたハミルトンは、ミハエル・シューマッハに並ぶ史上最多の7度目の王座に就いた。単独最多勝記録も更新したこのレースで、ハミルトンはそれまで勝利してきた93回のどのレースとも違う輝きを放っていた。
ハミルトンの強さの源泉は、勝利数を上回る史上最多97回となるポールポジションを獲得するそのスピードにある。今シーズン、それまで挙げた9勝のうち7勝はポール・トゥ・ウィン。残る2回もフロントロウから勝ち取った勝利だった。しかし、トルコGPではポールポジションを獲得することができなかっただけでなくフロントロウをも逃し、予選6位に沈んだ。
「今日はハミルトンが勝てるレースではなかった」
ハミルトンが遅かったのではなくメルセデスのマシンが遅かったことは、チームメートのバルテリ・ボッタスもまた9位に沈んだことが如実に示していた。トルコGPの舞台となったイスタンブール・パーク・サーキットはグランプリ開幕直前に再舗装して滑りやすい路面となり、メルセデスからスピードというアドバンテージを奪っていたのである。
メルセデスのチーム代表を務めるトト・ウォルフもこう認めている。
「われわれはトルコGPの週末、競争力がなかった。イスタンブールではベストマシンではなかった」
これは決してウォルフが謙遜して語った言葉でないことは、長年ハミルトンとタイトル争いを演じ、この日のレースでも激しいバトルを繰り広げたセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)のレース後のコメントからも明らかだ。
「正直、今日はハミルトンが勝てるレースではなかった。コース上に留まるのすらほんとうに難しい2時間におよぶ戦いで、彼はまたしても“特別な何か”を引き出して勝利を掴んだ。彼が数々の偉業を成し遂げてきた理由がまさにそこにある」