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史上初の「秋のマスターズ」勝つのはパワーか、熟練の技か? 聖地オーガスタから届いた1通のメール
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byGetty Images
posted2020/11/12 11:01
オーガスタ攻略へ自信をのぞかせたタイガーウッズ。史上初の「秋のマスターズ」は誰が制するのか
無敵タイガーにオーガスタが講じた対策
まるで20年ほど前のゴルフ界の再現のように感じられる。1997年マスターズを2位に12打差で圧勝したタイガー・ウッズが、圧倒的なパワーと飛距離を武器にして世界のゴルフ界を席捲したあのころ、誰もがパワーと飛距離を求め、ゴルフ界に未曽有のパワーゲーム化が巻き起こった。
すると、オーガスタ・ナショナルは「ウッズ対策」として、2002年にコースの大改修に踏み切り、全長を300ヤード以上も伸長。マスターズの舞台は距離的にタフなコースに様変わりした。
そう、オーガスタ・ナショナルの動きはいつだって迅速ゆえに、巨体化とパワーゲーム化を進めるデシャンボーの大暴れに対しても必ずやアクションを起こすと見られており、彼が「常習」と言われているスロープレーの取り締まりを強化するのではないかと米メディアは予想。デシャンボーが頼り切っているグリーンブックは、そもそもマスターズでは使用禁止だが、マスターズ委員会が全選手に支給しているピンシートなども完全撤廃し、頼れるものは肉眼のみとするのではないか等々、さまざまな「デシャンボー対策」が予想されていた。
だから、マスターズ・ウィークの到来早々にオーガスタ・ナショナルから届いた声明は、てっきり何かしらの「デシャンボー対策」の発表なのだろうと思った。
しかし、その中身は、まったく予想外の内容だった。
黒人ゴルファー育成のため奨学金制度
オーガスタ・ナショナルの緑色のロゴマークが付されたその声明は、45年前、黒人プロゴルファーとしてマスターズに初めて出場したリー・エルダーの名の下に、オーガスタ・ナショナルが地元の大学に黒人ゴルファー育成のための奨学金制度を創設し、さらにエルダーを2021年大会に現在のジャック・ニクラス、ゲーリー・プレーヤーとともにマスターズの名誉スターターとして迎えるという発表だった。
ジョージア州オーガスタ市内にあるペイン・カレッジは歴史的に黒人学生が集う大学。そのゴルフ部の男女各1名を奨学生として育成し、さらには黒人女性のゴルファーを育成するための新たなファンドを創設することが記されていた。
なるほど。BLM(ブラック・ライブズ・マター)の運動、混乱続きの米大統領選、さらには黒人女性であるカマラ・ハリス副大統領が誕生しようとしている今、そういう時代の流れにタイムリーに真摯に対応することで、オーガスタ・ナショナルはその存在意義を示そうとしている。
コロナ禍の不安や混乱、デシャンボーを筆頭とするゴルフのパワーゲーム化、用具合戦、飛距離合戦。そうした流動的な諸々に直接的に対応するのではなく、何が起ころうともオーガスタ・ナショナルは毅然と凛とそびえ立つことを誇示している。
それは、パワーでゴルフを支配しようとする試みへの静かなる反論に違いない。