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「オリンピック選手のスキャンダルが燃えやすいのはなぜ?」柔道部出身の格闘家・青木真也の答えは…
text by
おおたとしまさToshimasa Ota
photograph byWataru Sato
posted2020/11/07 17:03
“異業種格闘対談”にのぞむ東大卒プロゲーマー・ときど(左)とプロ格闘家・青木真也
青木 肉体的なツラさなんてたいしたことないんですよ。それよりも、自分と違う思想のもとで生きなきゃいけないということのほうが苦しいんですよ。だからいま若い子と話をしていて、「本当に合わなくてツラいんだったら、やめちゃいなさい」ってアドバイスすることありますもんね。あの経験があるから。
ときど 僕も大学院の研究室で、似たようなツラさを味わいました。みんな優しいひとたちだったし何も間違ったことはやってなかったと思うのですが、いまあの状況に戻ったとしてもやっぱり耐えられないでしょうね。でも一方で、あのときのあの経験がなかったら、「意志」をもってゲームをしていなかったかもしれません。あの時期を経験してようやく「ゲームがないと生きていけないんだ」ということが確認できたわけですから。
青木 それだったら強いですよね。だってこれしかないんだもん。
ときど 逆に言うとそれまで自分で自分の人生を本気で決断したことがなかったなって気づいたんですよ。
「メンタルトレーナーなんていらない」
ときど ゲームでも格闘技でもなんでもいいと思うんですけど、真剣に取り組めることを見つけて、没頭するってことができれば「メンタルトレーナーなんていらない」って話になりますしね。
青木 僕、メンタルトレーナーも嫌いなんです。小手先のテクニックで解決できることなんてたかが知れてます。「そんなことやるくらいなら昔の文芸作品とか本を読めよ」って若い子たちには言いますね。だって自分の人生のなかでものごととどう向き合うかって話が本質じゃないですか。
ときど そうやって日々向き合ってきたことの厚みが、いまになってもパフォーマンスが落ちないという結果につながっているんでしょうね。
青木 37歳になりましたが、思ってた以上にパフォーマンスは落ちてませんね。カラダが頑丈でケガがないだけでなくて、経験がモノをいう世界である側面もあるので、総合力として何とかやれている感じはします。そういう意味では、ようやく形になってきた感はありますけど……。でもやっぱ、一難去ってまた一難みたいなところもあって、やらなきゃいけないことは増えていきますよね。
ときど 完成はないですね。
「オリンピックアスリートは弱いな」
青木 あと、「世の中から認められたい」とか、「なんで世の中からむごい扱いをされなきゃいけないんだ」とかいう意識は、僕にはないですね。格闘技をもっとメジャーにしたいと思ったことが若いころにはなかったわけではないですが、いまは思わない。
ときど それはどういう変化だったんですか?