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きっかけはTV・ネット動画を見て練習…『ハイキュー!!』に描かれた“ありそうでなかった風景”とは?
text by
bookish(マンガナイト)bookish
photograph by古舘春一/集英社
posted2020/11/04 11:02
大人気バレーボール漫画『ハイキュー!!』がついに最終巻を迎える
スポーツ漫画において、こうしたIT(情報技術)機器での情報収集・分析を重ねながらの練習は、いくつかの作品で最近見られる描写となってきています。『おおきく振りかぶって』(ひぐちアサ/講談社)では、西浦高校にコーチとして招かれた監督の父親が、手元のスマートフォンで西浦高校野球部の投手、三橋廉のフォームを撮影してすぐにタブレット端末で再生し、どのような練習をすべきかを選手らに確認させます。Jリーグのユースチームを描く『アオアシ』(小林有吾/小学館)では、主人公の青井葦人らが試合結果を寮のテレビやタブレット端末を通じて振り返り、その後の練習に生かそうとします。
味方の士気を高める「俺スゲー動画」
『ハイキュー!!』に登場する選手たちは、セルフイメージを高めるトレーニングとしても映像データを活用しています。
第21巻、烏野高校は宮城県内予選で王者・白鳥沢学園を破り、東京で開催される「春の高校バレー 全日本バレーボール高等学校選手権大会」に出場を果たします。全国大会の慣れない体育館や強豪との対戦を控えて一部選手が緊張するなか、コーチの烏養繁心が取り出したのが「俺スゲー動画」でした。それまでの各選手のファインプレーとテーマ曲を組み合わせたものです。この映像を見ながら、選手たちは「自分はできる」「こんなにすごいメンバーが一緒にいる」という認識を固めていきます。
スポーツ選手にとってここ一番の試合に向けて身体的なコンディションとメンタルを最上の状態に維持することは不可欠。まだ精神的に完成しているとはいえない高校生に対し、烏養コーチは映像と音楽を使ってベストの自分を脳に焼き付けさせ、試合中も常にベストの自分をイメージできるようにしようとします。
なお、この映像集は烏養コーチの友人で、地元で「滝ノ上電器店」を営む滝ノ上祐輔作。個人経営の電器店に、映像の編集・加工ソフトが普及しているという2010年代という時代背景もこの展開に説得力を持たせます。