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「テレビにいっぱい出ました!でもホントは…」ラグビーの“笑う男”中島イシレリが一瞬だけ語った本音
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byAtsushi Kondo
posted2020/10/27 11:01
神戸製鋼のグラウンドでの撮影に応じた中島イシレリ。喜びの感情を表す「イヤボイ(yeaboii)」が口癖
「イシさんはお笑い芸人です(笑)」
「イシさんは……お笑い芸人です(笑)」
3人それぞれについて語ったトークで、アサエリは愉快そうに笑った。ともにトンガ出身の二人は、同国のU-15代表で顔を合わせて以来の大親友。W杯前の宮崎合宿中も同部屋だったそうで、朝から晩まで続いた過酷な練習に疲れて戻ってくると、いつも明るいイシレリのジョークに助けられたという。
イシレリは流通経済大時代から、NEC、神戸製鋼とFWの花形であるナンバーエイトを担ってきたが、W杯を見据えて2019年1月からプロップにコンバートされた。慣れないポジションのうえ宮崎合宿中はふくらはぎを故障。代表入りを争う立場としては自分自身が崖っぷちだったはずだが、アサエリ曰く「イシはジョークばっかり。部屋では毎日笑っていました。お風呂にいったら30分くらい座ってしゃべって、ジョークを言いながら」。ハードな合宿に疲労困憊だった盟友も、底抜けの明るさと前向きさに助けられたという。
「プロップ転向、数カ月で……そんな話聞いたことないです」
一方、ラファエレはイシレリを「世界のなかでもトップレベルのプロップだと思う」と断言する。
「そもそもナンバーエイトからプロップに転向して、数カ月でトップレベルの試合に出るなんて。そんな話聞いたことないです」
同じFWでもパワーだけでなく、スピードや運動量も重要なエイトマンと、スクラムの柱となるPRでは、求められるものが全く違う。本人はコンバートで「好きなだけ食べられるようになった」と減量を気にしなくてすむことを前向きにとらえていたそうだが、体づくりだけでなく、頭と心をフル稼働して新しいポジションに適応することは想像以上に大変なことだろう。
コンバートからわずか半年余りで出場したW杯では5試合全てに途中出場しインパクトプレーヤーとしての役割を果たした。頼もしいことに伸びしろは、まだまだ残っている。
「プロップとしてまだ知らないことがいっぱいある。まだ成長できる感じはあります」
とイシレリ。一番の武器は、言葉も環境もポジションも“お笑い”も、あっという間に自分のものにしてしまう抜群の「適応力」。その大らかな明るさが、フレキシビリティの秘訣であることは間違いないだろう。