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藤井聡太との一戦に臨む史上最年少名人、谷川浩司。28年前、十五世名人の「置き土産」とは。
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph byTakao Inoue
posted2020/09/08 11:50
若き日の谷川浩司九段。藤井聡太二冠が谷川九段の「史上最年少名人」記録を上回るためには、順位戦で1年たりとも足踏みが許されない。
谷川の鋭い攻めを、丁寧に1つひとつ潰す。
インタビューの際、谷川は、自身の四冠時代の'92年に、A級順位戦で39歳年長の大山康晴十五世名人と対戦して負かされたときの話をあえて持ち出して、「大山先生に置き土産をいただいた気持ちになりました」と懐かしんでみせた。
結果的にその年の名人挑戦権を逃すことにつながった、谷川にとっては非常に大きな敗戦だったが、そこには得難い収穫もあったのだという。
谷川が繰り出す鋭い攻めを、丁寧に1つひとつ潰していく、全盛時を思わせる大山流の指し方。2人にしか通じ合うことのない盤上での会話で、将棋の奥義を伝授されたのかもしれない。
今回の藤井聡太との対戦を、昭和の大名人大山康晴から直々に受け継いだ恩をつなぐ絶好機と考えている谷川。インタビューでそんな気配が静かにこぼれ出ているのを感じ、興奮してしまった。
9日、棋史に語り継がれる名局の誕生を期待せずにはいられない。
(発売中のNumber1010号「藤井聡太と将棋の天才」では、光速流の現在に迫る、谷川九段へのロングインタビュー「光速は終わらない」を掲載しています。是非お手に取ってご覧下さい)