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藤井聡太との一戦に臨む史上最年少名人、谷川浩司。28年前、十五世名人の「置き土産」とは。
posted2020/09/08 11:50
text by
片山良三Ryozo Katayama
photograph by
Takao Inoue
今期のB級2組順位戦は、総勢25人で各自10局のリーグ戦。9カ月という長い期間で、棋士たちが地位と名誉と上位3人の昇級枠をかけて争う。その4回戦12局が9月9日(水)に東西の将棋会館で一斉に行われる。
断然注目を集めるのが、谷川浩司九段と藤井聡太二冠の激突。先後は組み合わせの抽選の時点で谷川の先手番とすでに決まっている。
1976年12月に14歳で奨励会を卒業して棋士になった谷川は、21歳2カ月という、いまも破られない史上最年少記録で名人の座に就き、十七世名人の資格(原則、引退後に襲名)も得ている。
タイトル獲得数は通算27期で歴代4位。文字通り、功なり名を遂げた名棋士だ。Number1010号掲載のインタビュー「光速は終わらない」では、その偉大な棋士人生を振り返りながら、未だ衰えぬ将棋への情熱を語ってくれている。
「将棋を指し続けたい気持ちを優先しました」
前期のB級1組順位戦で降級が決まったときは引退も噂される事態となって、リーグ戦最終局終了後に記者会見も開かれたが、その決断は順位戦で指し続ける、というものだった。
「まだ58歳。シンプルに、将棋を指し続けたい気持ちを優先しました」と、爽やかに述べてファンを安心させたのだった。
そのときに筆者がふと気がついたのは、谷川が今期のB級2組で指す大きな意味の1つに、C級1組から上がってくる藤井聡太との対戦が組まれる可能性を楽しみとしたのではないか、という推測だ。
両者は昨年の9月に王将戦の挑戦者決定リーグ入りをかけた2次予選決勝で対戦したが、早い段階で谷川に大きな落手が出てしまい、これを的確にとがめた藤井が57手という短手数で勝っている。
しかし、持ち時間が長い順位戦での対戦はまったく別物。2人ともそう考えているに違いない。新旧の「中学生棋士」同士による40歳差の真剣勝負は、コンピュータ任せの組み合わせ抽選にもろくも阻まれる可能性もあったわけだが、そんな無粋な結果にはならないのが、2人が“持っている”ところなのだろう。