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“笑いも止まらない”ホークス工藤公康。あの杉内俊哉をマネる「ショートスターター」とは?
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKyodo News
posted2020/09/05 09:00
8月27日のオリックス戦で5回1失点、先発初勝利を挙げたソフトバンクの左腕・笠谷。
「一軍初登板を果たして、その翌年は2軍で先発として多くのチャンスを与えてもらいました(ウエスタンで18試合登板、うち11試合に先発)。しかし、肝心のストレートがおかしくなったんです。引っ掛かったり、抜けたり。フォームの問題なのか気持ちなのかすごく悩みました」
三軍制のホークスにはファームに多くのコーチがいる。笠谷はとにかくいろいろな人に助言を求めた。その中で「技を磨くと、心が安定するんだよ」という言葉をもらった。心技体ではなく、技心体だ。ならばフォームをもう一度見つめ直し、そして固めるところに集中すればいい。迷いが消えると、復調に向けてひたすらまい進することができた。
再び自信を取り戻した笠谷のストレートは、以前よりも成長していた。球速は150キロを超え、それに近いボールを安定して投げられるようになった。
2回7失点でもファーム落ちしなかった理由。
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そんな若い左腕の才能を誰よりも高く評価するのが、工藤公康監督だ。
7月8日のイーグルス戦(PayPayドーム)。この前日に当初先発予定だったマット・ムーアが左脚を故障し、突如、笠谷にプロ初先発の機会が巡ってきた。しかし、初回にいきなりノーアウト満塁のピンチを背負い3点を失うと、二回も適時打の後に3ランを被弾。2回6安打2四球7失点という散々な結果だった。
笠谷は「与えてもらったチャンスで、何とかチームの力になりたかったけど、自分の投球ができなかった。野手の皆さん、中継ぎの皆さんに本当に申し訳ないです」と肩を落としたが、工藤監督は「1つ1つのボールは良かったと思っています。試合前から話していたように『行け』と言ったのは僕なので、責任は僕にあります。これを糧に、投手としてもう一段、強い心を持てるように頑張ってほしい」と精一杯かばった。
或いはファーム降格でも仕方のない内容だったが、工藤監督は4日後に中継ぎで挽回のチャンスを与えた。そこで好投し、続く7月15日の試合でプロ初勝利をマークした。
「板東くんとセットで」
すると笠谷はまた、先発を任されるようになった。
とはいえ、役割は「ショートスターター」だ。工藤監督は「板東(湧梧)くんとセットで」と明言して、何度か起用を続けた。
7月23日 日本ハム戦/先発・笠谷3回3失点(負け投手)→2番手・板東4回無失点
7月30日 西武戦/先発・板東4.1回5失点(負け投手)→4番手・笠谷1回無失点
8月6日 楽天戦/先発・笠谷2回1失点→2番手・板東3回無失点(勝ち投手)
8月9日 楽天戦/先発・笠谷3回無失点→2番手・板東4回無失点(勝ち投手)
8月15日 オリックス戦/2番手・笠谷3回無失点→6番手・板東1回無失点
8月20日 ロッテ戦/先発・笠谷4回無失点→(板東登板なし)
8月27日 オリックス戦/先発・笠谷5回1失点(勝ち投手)→2番手・板東3回無失点
リストを作成すると一目瞭然だ。その中で笠谷のイニングは着実に伸びていた。8月20日のロッテ戦は4回2安打6奪三振で無失点の結果で、内容も素晴らしいピッチングだった。スポーツには禁物の「たら、れば」だが、そのまま続投していれば白星を手に出来ただろうと思えるほどの投球だった。
だから、翌週の登板で先発初勝利を手にした時に笠谷本人は大喜びだったが、周囲から見れば「彼の力ならば当然」と見る向きも多かった。
笑みを浮かべる工藤公康。
工藤監督は笠谷について問われると、笑みを浮かべてこのように話した。
「先発として成長というか、その計画で進んでいたので」