欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
叫ぶ内田篤人、目を閉じる内田篤人。
写真で振り返る「22番」の冒険記。
posted2020/08/26 20:00
text by
千葉格Itaru Chiba
photograph by
Itaru Chiba
2010年7月、内田篤人はドイツに渡った。2010年11月、僕もドイツに渡った。
内田は前年までJリーグ3連覇を成し遂げた鹿島の主力。日本代表としても、プレー機会こそなかったが南アフリカワールドカップにも参加した、日本で最も注目される選手の1人だ。
一方こちらは、Jリーグでの撮影経験も5試合程度の自称若手カメラマン。サッカーを撮りたい一心で無謀にもヨーロッパに移住した。行き先にドイツを選んだのは、サッカー大国の中ではビザ取得が容易だったから。日本人選手数人がブンデスリーガでプレーしていたことは、必ずしも理由ではなかった。
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つまり、当時の自分は「強豪シャルケに加わった日本代表DFを追い続けることでひと花咲かせよう!」なんて、ちっぽけな野望すら抱いていなかった。
しかし、ドイツに渡るとすぐに内田を撮影する機会は増えていく。
力強く握った拳が物語る激闘。
2010-11シーズン、シャルケはチャンピオンズリーグで勝ち上がり、当然、日本での注目度も上がっていった。そうなれば、日本からやってきた撮影者としても、その試合に行こうとするのは自然な流れだ。大歓声に包まれたホームでのベスト16バレンシア戦2ndレグ、不気味で怪しげな雰囲気漂うジュゼッペ・メアッツァでの準々決勝インテル戦1stレグでは、どちらもシャルケの歓喜に立ち会うことができた。
特に、長友佑都が所属するインテルとの日本人対決となった準々決勝2ndレグは、日本でも大きな注目を集める一戦だった。1stレグを5-2で制して優位に立ったシャルケは、2ndレグでも2-1で勝利を手にして準決勝進出を決めた。7-3という2戦合計スコアを見るとシャルケの快勝だが、選手としては最高峰のチーム同士の対戦が簡単だったはずもない。
タイムアップの瞬間の写真が残っている。
腕には芝が張り付き、下のユニフォームにはスライディングの痕跡。激闘の証が残る内田は、力強く両手の拳を握り、前に屈みながら目一杯叫んでいる。
実は、喜びの場面でこれほど激しく感情を表に出した彼の写真は、後にも先にもこの一枚しか撮ることができていない。CLという世界最高の舞台で戦う重み。そこで勝つことがどれだけ幸せか。それに加えて、この選手の中にどれほど熱いものが流れているのか。そんな色々が、この時、見る側にも一気に飛び込んできた。