野球善哉BACK NUMBER
昨夏の最後の打者が再び9回2死で。
星稜・知田爽汰の1年越しのヒット。
posted2020/08/15 15:30
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Naoya Sanuki
最近、高校1年生になる姪っ子の勧めでベストセラー漫画『東京卍リベンジャーズ』を読んでいる。主人公がかつての恋人が殺害された現実を変えようと過去に戻って歴史を変えるといういかにもフィクションのサスペンス作品だ。
現実世界ではありえない話だが、人は過去に戻って今の自分を変えたいと思うものだからこそ、この漫画は人気があるのかもしれないと感じた。
現実世界を生きる我々には歴史を変えることはもちろんできないが、辛い体験を乗り越え、過去を塗り替えることはできる。
甲子園交流試合4日目の第1試合、昨夏の決勝カードとなった星稜vs.履正社のゲームで、まるで昨年のデジャブのようなシーンに遭遇した。履正社の9点リードで迎えた9回裏、2死走者なしで打席に立ったのが、昨夏、最後の打者となった星稜の5番打者・知田爽汰だった。履正社の投手も昨夏と同じ岩崎峻典である。
知田はデジャブの9回をこう回想する。
「8回くらいから、このまま行ったら最後の打者になるなと頭をよぎっていました。カウントが3ボールになって、フォアボールかなと思ったんですけど、そこから岩崎投手は粘ってストレートで押してきた。自分としてはそのまま終わるのは嫌だった」
3-2からの6球目、知田は岩崎のストレートを右翼に痛烈に弾き返し、見事なリベンジを果たした。
あのシーンから1年間が始まった。
「(岩崎投手は)カットボールがいいピッチャーだと去年の対戦から感じていました。このカットボールに手を出したらいけない。でも、3打席目はその球に手を出して三振をしてしまった。最後の打席はカウントが3ボール2ストライクになってカットボールがくるかもしれなかったんですけど、ストレートがきて、うまく打てたと思います」
こちらも絵に描いたような話だが、知田にとって、この1年間は、まさに昨年夏のあのシーンから始まったといってもいい。YouTubeでもかなりの再生回数がある甲子園のクライマックスシーンを、知田もまた宝物のように見てきた。
「あの動画を見ると悔しい気持ちが蘇ってくるんです。だから、練習前に見るようにしてきました」