進取の将棋BACK NUMBER
藤井棋聖の過密日程と“羽生伝説”。
中村太地七段が語る将棋と体調管理。
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph byKYODO
posted2020/08/16 09:00
王座を獲得したこともある実力者の中村太地七段。棋士の過密日程のなかでの過ごし方や体調管理について率直に語った。
羽生さんは1日の間に別の早指し棋戦を2つこなした。
これまでの棋士で最も年間対局数が多かったのは、2000年度の羽生善治先生の89局。それに続くのは私の師匠である米長邦雄永世棋聖の88局(1980年度)です。
これほどまでの対局数になると大みそかに対局して、その数日後には指し初めの前から対局をしていた――という話も聞いたことがあります。
羽生さんにも逸話があって、1日の間に別の早指し棋戦を2つこなしたとも。具体的に説明すると午前中、午後とそれぞれ移動を伴う棋戦に臨むという驚きのスケジュールです。
もし午前中の対局が持将棋(※双方の玉が相手陣内に入って詰む見込みがなくなった場合、それぞれの持ち駒を計算して、両者24点以上の場合引き分けとする規定)になってしまったらどうしたんだろう、とも思ったんですが(笑)、それほどまでのスケジュールをこなしていたことには、ただただ敬服するばかりです。
永瀬二冠の“沼に引きずり込む”ような戦いぶり。
またA級順位戦がものすごいプレーオフになった時、豊島さんが毎日のように公式戦が存在するスケジュールになったのは語り草ですね(※第76期A級順位戦、史上最多の6人が6勝4敗で並ぶ異例のプレーオフに。当時の豊島八段は2018年3月、プレーオフと2日制の王将戦を立て続けに対局した)。
その際、豊島さんは「休むときは意識して休む」と決めていたそうです。
私が対局して「ものすごい体力だな」と感じている棋士は……永瀬二冠ですね。永瀬二冠はとにかく“将棋の体力”がものすごい。いくら将棋のことを考えていても楽しい、といった印象を受けます。
永瀬さんと豊島さんが現在戦っている叡王戦がまさにその例です。
第7局を終えた時点で2つの持将棋になるなど、永瀬さんが“沼に引きずり込む”ような戦いぶりと言いましょうか。それに対して豊島さんも敢えて永瀬さんの意図を受けて立ち、タフな戦いを続けているという印象です。
これもまた1人の棋士として見ごたえがあります。
こういった棋士それぞれの特長を知りつつ、どんな調整をしているのか。そういった部分にも思いを馳せてもらって、対局を楽しんでもらえれば嬉しいなと思います。
(構成/茂野聡士)