プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
息子と同じ33歳差の初シングル対決。
武藤敬司が清宮海斗に伝えたもの。
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2020/08/11 19:00
今となっては古典的な技「足4の字固め」。武藤敬司は節目節目に、この象徴的な技を使ってきた。
ムーンサルトプレスだけは決して受けない。
どうにかロープに逃れて、清宮は自分の持っているものを武藤にぶつけていった。武藤は逆らうことなく、その攻撃に身を任せた。ドロップキック、ジャーマンスープレックス、タイガースープレックス。
だが、武藤は自分が封印したムーンサルトプレスだけは意地でも受けることはなかった。その技を試みた清宮は、むなしく両ヒザをマットに叩きつけてしまうことになった。
武藤はコーナーからもドラゴンスクリューを放った。飛びヒザ蹴りであるシャイニングウィザードを連打して清宮を追い詰めて、リング中央でもドラゴンスクリューを回転方向を変えてきれいに決めて、最後は足4の字固めに清宮を捕らえた。
たかが4の字、されど4の字。
27分7秒。清宮、ギブアップ。
たかが4の字、されど4の字。武藤は大の字のままの清宮の手を軽く握ると、足早に花道を引き揚げた。熱闘につぐ熱闘……とにかく水が欲しかったのだろう。
「暑くて暑くて。この体育館(9月に閉館が決まっている)に一番なじんでいるはずのオレなのに、試練を与えられたね。暑くてたまらなかったよ。
コロナで年寄りとかが避けられている傾向があったからね。プロレスじゃ、オレもじじいだけど、年配の方に活力や夢、希望を与えたいと思った。でも、脱水症状になるかと思ったよ」
試合中、武藤はリング上で「暑い!」と絶叫して、ファンの笑いと共感を呼んだ。この日の外気温は35度、館内は冷房が一応入っていたが、コロナウィルス対策の換気とリングの照明で確かに暑かった。