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息子と同じ33歳差の初シングル対決。
武藤敬司が清宮海斗に伝えたもの。
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2020/08/11 19:00
今となっては古典的な技「足4の字固め」。武藤敬司は節目節目に、この象徴的な技を使ってきた。
「清宮もさ、将棋でいうと藤井聡太」
もちろん清宮にとっても通過点であることに変わりはない。
2018年12月、この横浜文化体育館で清宮は杉浦貴を倒して史上最年少のGHCヘビー王者となって、ファンに「新しい景色を見せる」と宣言した。
だが、今、清宮の腰にそのベルトはない。「新しい景色」という言葉も頓挫した感さえある。
そして、選択したのが「新たな領域」への挑戦だった。“プロレスリング・マスター”武藤の世界を体感することで「また新しい景色が見えてくるかもしれない」という思いだった。
清宮は武藤戦が決まると、武藤に集中したという。想定される武藤の技には対策をねった。ドラゴンスクリューへの対策は万全だと思っていた。自ら同方向に回転して、マットに両手をつくことで、それを封じる作戦だった。
「清宮もさ、これは想像なんだけれど、将棋でいうと藤井聡太七段、彼と対局しているプロの棋士になった気分だった。途中、コイツの策略にオレ、はまっているな、と思ったよ」(武藤)
武藤はテレビでも披露している麻雀だけでなく将棋もたしなむ。
清宮が歳に似合わないアームバーという古い技を仕掛けてきたので、うれしくなったのかもしれない。
高田延彦からギブアップを奪ったあの技を。
36年間のキャリア、海千山千、武藤のプロレスの引き出しには自分でも覚えていないくらいものがいっぱい詰まっている。「最近は歳のせいか、脳から体への伝達は遅いんだ」と言うが、遅くなった伝達を独特の「武藤敬司の間」が補う。
武藤は場外の鉄柵に清宮を叩きつけ、ディフェンスのできない状態で足を取るとフェンス越しのドラゴンスクリューを見舞った。さらにはリングに上がってくるところを待ち受けて、ロープ越しに再度のドラゴンスクリュー。そして、さらなる足殺し「足4の字固め」へともって行く。
1995年10月、超満員の東京ドームでの伝説のIWGP戦で高田延彦からギブアップを奪った武藤の十八番だ。