サムライブルーの原材料BACK NUMBER
読むとなぜか元気に。失明危機の
フットボーラー・松本光平の告白。
posted2020/08/06 20:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Yuki Suenaga
昨年のクラブワールドカップにも出場した選手が、右目がほとんど見えなくなり、左目の視力もかなり落ちてしまうという痛ましい事故にあいました。しかし、苦難の状況にも負けず、前向きにサッカーに取り組もうとしています。そのポジティブな告白を前後編に分けて公開します(後編は記事最終頁下の「関連記事」よりご覧ください)。
「絶望的」という言葉がある。
辞書を引けば「絶望」は「望みがまったくなくなること」。だが語尾に「的」が入ることによってニュアンスは多少なりとも弱まる。有望の余地をかすかに残し、いずれ絶望をひっくり返す可能性だって否定されない。
絶望と絶望的には、それほどの違いがある。
もし貴方がサッカー選手だとして、目のケガで失明危機にあったとする。少なくとも私なら、サッカーを続けることなんて考えられない。絶望の枠からきっと出ようともしない。
たとえ、失明を避けられて「絶望的」に心を持っていくにしても時間も要る、そのパワーだって要る。「絶望」にすぐさま引き戻されてしまうことだってある。会う前に、そんなことを想像する。
昨年、クラブワールドカップに出場。
松本光平は違う。
絶望とも、絶望的とも考えていない。有望しか持ち合わせていない。
彼の置かれた状況を考えれば「絶望に近い絶望的」なはずなのに、「有望に近い絶望的」に思えてくる。
31歳、オセアニアに活動の拠点を置くプロフットボーラー。ニュージーランドのハミルトン・ワンダラーズに所属するサイドバックだ。
昨年12月、ニューカレドニアのヤンゲン・スポールの一員としてカタールで開催されたクラブワールドカップ(CWC)に初出場。「結果も内容もダメだった」との悔しさもあって、今季再び出場することを目標としてきた。
コロナ禍で試合も全体練習もストップしていた5月中旬のことだった。
寮のガレージで自主トレ中に、ゴムチューブを固定していた留め具が外れて右目を直撃し、ゴムチューブが左目を襲った。