灰色がいぶし銀に変わる4年間。

　主務の仕事は、マネジャー全体の統括のほか、競技会の運営、合宿の手配、試合のエントリー、メディア対応などと多岐に渡る。大変なわりに注目されることもめったにないが、高信は主務の仕事を一生懸命にこなした。

「大変でも、やりがいがあります。野中さんが“4年間、灰色のようでも、しっかり頑張ることで、それがいぶし銀に変わる”とおっしゃっていたのが印象的で、自分も泥臭くやっていくことで、野中さんのように、いぶし銀がかった4年間にしたいと思いました」

　裏方のそんな奮闘もあって、名門復活とはまだまだ言えないものの、着実にチームは地力を付けていった。

　高信の1年時は箱根予選会で敗退したが、2年時に箱根路に復帰。3年時の昨年度は、10000mの上位10人の平均タイムが日大史上初めて28分台に突入し、名門復活の萌芽を少しだけ覗かせた。

　ところが、箱根駅伝本戦で18位に終わり、肝心の結果を残すことができなかった。とはいえ、課題は明確。また、武者監督が初めてスカウトした“武者チルドレン1期生”が最終学年を迎える今季こそ、勝負の年だと思っていた。

　その矢先の監督交代だった。

「4年間見てあげられなくてごめんな」

「学生の前では口に出しませんでしたが、武者さんは相当悔しかったと思います」

　報道があった前日に、まず“武者チルドレン1期生”の4年生だけ集められ、武者氏の口から退任を告げられたという。

「4年間見てあげられなくて、ごめんな。しっかり俺の分まで頑張ってくれ。力はあるんだから、結果を残してくれ」

　普段からそんなに口数が多くはない武者氏らしいシンプルな言葉だったが、学生たちには伝わるものがあった。

　そのあと4年生でミーティングを行ったが、「指導者が誰であれ、頑張るのは自分たち学生だから、ここで足踏みしている場合じゃない」と、高信はみんなの前で話し、チームは一致団結を誓った。

【次ページ】　後任が青葉氏だったのは幸いだった。